マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
大阪桐蔭の深さを知った草むしり。
彼らの目標は「甲子園」ではない。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2018/04/11 16:30
日本最高の野球の才能たちが集う大阪桐蔭。その才能たちが油断なく上を目指しているのだから、強いのは必然なのだ。
「今、自分がやるべきことは“これ”なんで」
室内練習場に行く時に、脇を通って声をかけてみた。
「たいへんだなあ……こんなにやるんだ」
ちょっと恥ずかしそうにしながら帽子をとったその頭が“五厘”だった。
「はい、でも、今、自分がやるべきことは“これ”なんで」
よくある被害者意識のような、卑屈な物言いじゃなかった。
声の調子は控えめだったが、どこか前向きな響きがあって、こちらのほうが救われた。
「そうか……頑張ってなって言うのも変だけど、でも頑張ってな」
歩き出そうとした背中に、何か聞こえたような気がして、えっ? と振り返った。
「自分たちはいつも、今、何をすべきかを考えながらやってきたんで。自分は今、グラウンド外ですけど、やっぱり自分が何をしなきゃいけないかを考えてるんで」
グラウンド外の“選手宣誓”。
まいった! またしても一本取られた。
彼は、人のせいにしていない。今度のことを、自分がさらに強く、大きくなるための礎にしようとしていた。
甲子園なんてみみっちい目標ではない。
きっと彼らは、「甲子園で勝つために」とか、そんなみみっちいことを目標にしていないのだろう。
もし、その次元の意識だったら「こんな時期に草むしりなんて……甲子園で活躍できなかったら、監督のせいだ、部長のせいだ」と、大人のせいにしていただろう。
大阪桐蔭の彼らの目指すところは、きっともっと先の、もっと大きなものなのだろう。
ひとりの人間として、男として強く大きくなるために、高校野球に取り組む今、自分たちはどうあるべきなのか。
そこまでの次元で、高校野球に取り組んでいるのではないか。大阪桐蔭の“人間力”に脱帽だった。
史上3校目の「センバツ連覇」。大阪桐蔭の偉業に、心より敬意を表したい。