スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
カーリングの精神を示す大切な言葉。
「コンシード」を定着させた中継陣。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byRyosuke Menju/JMPA
posted2018/03/06 08:00
金メダルを争ったスウェーデンと韓国も、試合後には笑顔で握手。この精神は「ギブアップ」では伝わらない。
将棋や囲碁の「投了」に近い感覚。
カーリング的な意味合いを付加するならば、潔く負けを認め、相手を祝福する意味が込められている。ただ単に、ギブアップ、諦めるというのとは意味が違う。
私が感じるに、将棋や囲碁の「投了」の感覚に近い。
また、この言葉はアメリカの選挙ではよく使われる単語で、候補者が開票速報の成り行きを見て、自分の負けが決定的だと認めた場合、相手の候補者に祝福の電話を入れることを、「コンシード」というのだ。
政敵に電話を入れるという残酷なシステムだが、やはり、ここにも「相手を祝福する」という意味が込められている。また、アメリカでは「グッド・ルーザー」であらねばならないという、社会的な要請が根底に潜む。
私が思うに「ギブアップ」では、様々な背景を言い表せない。
故・小林宏氏の精神を受け継いだ進藤アナ。
では、なぜ今回のオリンピックにおいて、日本の放送では「コンシード」が定着したのだろうか?
ここからは私の推測だが、テレビ朝日の進藤潤耶アナが徹底したのではないかと思う。
なぜなら、2010年のバンクーバー・オリンピックの際に解説を務めた故・小林宏氏が、生前、私にこんなことを言っていたからだ(小林氏といえば、バンクーバーでは興奮のあまり、“This is curling!”と叫んだことが忘れられない。もちろん、次のショットの予測が的確だったことは言うまでもない)。
「制作スタッフからは、『ギブアップ』と言って欲しいと言われましたよ。その方が分かりやすいということでね。でも、カーリングの用語としては『コンシード』が正しい。コンシードは世界共通で、ギブアップなんて使いません。
進藤さんは、コンシードの精神をすぐに理解してくれました。ゴルフのマッチプレーで、負けを認めることを『コンシード』というそうで、ゴルフとカーリングは共通点がありますから、ピンと来たんでしょう」