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ハリルとフランス語で話してみる。
頑固な哲学者かオヤジギャグか?
posted2018/01/05 07:00
text by
高橋夏樹(Number編集部)Natsuki Takahashi
photograph by
Ichisei Hiramatsu
カメラマンが「腕を組んで、アゴに手をやってほしい」とポーズを依頼した。
カメラの前の男は、真面目くさった表情で「そうか。哲学者だな。そうだな……ヴォルテールか」と返す。思わずキョトン、とした顔になるカメラマン。
なんだか我々はこの男にずっと煙に巻かれているような気がする――。
2017年も押し詰まった、都内某所。その男、ヴァイッド・ハリルホジッチはE-1選手権終了後、フランスへ帰国する前の短い日程のなかで、メディア取材に応じていた。
前日は新聞取材、この日はテレビ局全局のコメント撮りを順繰りにこなし、最後が私たちのインタビューだった。
W杯本大会までいよいよあと半年。抽選会で決まった対戦国への作戦、欧州遠征ブラジル戦・ベルギー戦の分析、E-1選手権の選手選考への影響……訊きたいことは山ほどあるが、インタビュー時間は限られている。
普段はフランス語通訳を通して取材に応じるハリルホジッチ監督。だが通訳を間に挟むと、まず単純に質疑の時間が半減する。
また、テレビで見てもわかるように、彼は短いセンテンスで言葉を区切り、逐語訳のような形で通訳させることを好む。恐らく、長く喋った内容をざっくりとまとめられるよりも、正確にひと言ひと言を翻訳させたいのだろう。だが、正確さの反面、どうしてもぶつ切りのフレーズの連なりのように聞こえることは否定できない。
フランス語での直接対話で、会見以上の内容を。
そこでこの日のインタビュアーは、フランス語に堪能な田村修一氏に依頼した。直接対話で訊ねてゆけば、通常の会見以上の内容を引き出せるはず。恥ずかしながらフランス語をほとんど解さない私たちスタッフには、その場で話がわからないというリスクはあるが、入念に打ち合わせをしたうえで、田村氏にすべてを託したのだ。
「ああ、これは前回のインタビュー号か? 君はよく書いてくれたな」
やはり直接言葉が通じる気安さは大きい。ハリルホジッチ監督は前回登場したバックナンバーを見ると、多くの取材を終えてきた疲れも感じさせず、田村氏に熱弁を振るいだした。大きな身振り手振りをまじえて熱心に持論を説く姿を眺めていると、ふと漠然とした疑問が浮かんできた――我々はいまだにこの指揮官のことを理解していないのではないだろうか――。