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森岡隆三監督が体感したJ3の実態。
限られる予算とバス移動10時間。
posted2018/01/04 17:00
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
財務問題で幹部が退任し、存続の危機に面していたクラブを救うために登場したホワイトナイト。地元企業の創業者が社長に就任し、クラブをバックアップ。そして勝ち点を重ねることでその恩に報いる――。
そんな長崎のJ1昇格のストーリーは、日本国内に数多くある地方クラブが憧れるに十分な夢物語だろう。
ドイツで取材していて思うのは、国内各地にそれなりの大きな企業があるなということ。ドイツでは地方に企業が分散しているため、財政赤字問題を抱えるのは地方ではなく、首都ベルリンだという。首都に企業が集中し、地方都市の疲弊が目立つ日本とは大きく違う。
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そもそもドイツのサッカーチームのほとんどは、地元のスポーツクラブ内のひとつという位置づけだ。だから組織自体が大きく、それにかかわる人も多い。同時に地元企業がそのクラブをサポートしてくれる。ホームタウンの人口が少なくても、大企業がクラブを支えるケースは、ヴォルフスブルグのフォルクスワーゲン社だけではない。
多くの企業内の運動部から始まったJリーグのクラブとは、その成り立ちも運営方式も違う。ホームタウンの人口が少なければどうしても観客数も減るし、地元企業の数も少なく、スポンサーを探すのにも苦労する。そんな地方クラブの現状は厳しい。
森岡隆三は、鳥取が難しい環境なことは承知していた。
ましてやJ3という立ち位置では、さらに難しくなる。チーム強化にはそれに見合った資金が必要で、残念ながら“想い”だけでは強くならない。選手を育成するのも同様で、育成している選手と複数年契約を結ぶからこそ、その選手を売ることでチームは収入を得られる。「育成型のクラブ」にも、複数年契約可能な資金力が必要なのだ。
「鳥取からオファーをもらったとき、知人が鳥取という地域について、いろいろとアドバイスしてくれたんです。人口減少のこと、高齢化、地元企業が少ないこと、東西に広がった地域であること。
要は心配してくれたんです。鳥取で結果を残すのが容易ではないということについて。でもこの仕事に就き、地方の実態や社会を見る機会を得られ、自分の世界が広がったと思っています」
2017年シーズン、ガイナーレ鳥取の監督に就任した森岡隆三はそう話した。