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F1界に奇跡を起こす1人の日本人。
新興チーム・ハース快進撃の理由。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byUNIPHOTO
posted2018/01/01 17:00
2016年、ハースのシュタイナー代表(右)と小松エンジニア。小松はロータスチーム時代からグロージャンを育てたとも言われる。
組織の巨大化が風通しを悪くするのはF1も同じ。
'16年のベルギーGPで、小松はチーム代表のギュンター・シュタイナーにこう言ったという。「いまウチのチームの問題はレースチームではなく、クルマを根本的に理解して、レースチームをサポートしてくれる人がいないこと。ファクトリーにビークルパフォーマンス部門を作り、まずリーダーになるような人材を獲得してほしい」
先述のように、小松の役職はチーフレースエンジニア。ファクトリーの強化を考えるべき人物はほかにいた。通常のチームであれば、小松が担当する仕事ではない。
しかし、それがいまの巨大化したF1チームの悪弊にもつながっている。業務が細分化され、専門的な分野の仕事は正確にできるようになったが、逆にチーム内の風通しが悪くなるという弊害が生まれているのだ。
王者メルセデスからエンジニアをヘッドハント。
小松がこのチームに移籍してきたとき、まず考えたのが、チーム内の風通しを良くし、仕事をするスタッフが自分の能力をフルに発揮できる環境を作ることだった。そして、シュタイナーにスタッフの補強を進言することで、それを早速実行したのだ。
ただ、小松には一抹の不安もあった。もし、自分の意見が通らなかったら……。このチームの首脳陣にはチームを強くしようという考えがないのかもしれない、という根源的な問題に直面することになる。
だが、それは杞憂に終わった。シュタイナーの答えはひと言。「早く実行に移せ」だった。
こうして'16年の秋に、小松はメルセデスからシニアクラスの優秀なエンジニアをヘッドハンティング。その人物は、小松の大学院時代の先輩で、20年以上の長い付き合いがあり、小松の結婚式ではベストマン(新郎の付き添い人や立ち会い人。日本式に言えば仲人)も務めたほどの深い仲だった。