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人間の体の中身は左右対称ではない。
菊池雄星が始めた「左特有の投げ方」。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2017/12/04 08:00
同じ投手でも、利き腕が違えば“理想のフォーム”も違う。菊池の取り組みは、サウスポーにとって大きなヒントとなる。
右股関節を使いきれない、左投手の身体特徴。
右股関節を使い切れない原因は、左投手に共通する身体の特徴にある。
菊池の説明を補足する。左投手は左側の骨盤が前に出ているため、投球動作に入ると上半身は骨盤を戻そうとして、腕が内側に入る。右肩がセンター方向、テークバックした左腕は三塁側に動く。捕手側から見れば右肩は閉じたような形だ。
「身体の形状がその動きを生んでいるので、避けられない」(菊池)
ただ、そこから打者に正対して投球するためには、内側に閉じた腕を回さないといけない。つまり、身体を開いていくことになる。しかし、その動作だけではボールに力を伝えることが難しく、左投手は苦労するのだという。
インステップして投げる左腕が多い理由とは。
菊池は付け加える。
「左投手でインステップして投げる選手が多いのは、壁を作って体が開かないようにするためだと思います。でも右足で体を支える力のある人は我慢できますけど、力がないと開いてしまう。小学生でも、球が速いけどコントロールが悪い左投手が多くいますよね。僕もそうでしたが、小学生だと右足で支える力がない分、腕で調整せざるを得ないんです。
僕は去年まで、右の股関節に力をぶつけるような動かし方でした。これだと右足が受け皿にならず、体幹が抜けるような感じでした。岸(孝之)さんや大谷(翔平)といった右投手のフィニッシュと比較すると分かりやすいですが、股関節の柔軟性を使えていなかった。今年はそこが改善できたので、フィニッシュが変わったと思います」
直感的に理解するのは難しいが、菊池が最も伝えようとしているのは、左投手と右投手ではフォームを作るアプローチが全く異なるということだ。
プロレベルでも、選手に対して「俺はこうやって投げていた」「投手はこういうものだ」という指導がされることは多い。もちろんすべてが悪いというわけではないが、身体の仕組みを理解していないと大きな間違いを起こす可能性がある。菊池が土肥コーチと出会って大きく進化できたのは、2人が同じ左腕だったことも無視できないだろう。