第94回箱根駅伝(2018)BACK NUMBER
「箱根路から世界」に必要なものとは?
山梨学院大が培う“スピリッツ”。
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph byKyodo News
posted2017/11/13 12:20
ロンドンの世界陸上で日本代表として、自身3度目となるフルマラソンを走った24歳の井上。
上田監督が口にした3人の共通点とは。
3人の恩師である上田監督はこう振り返る。
「共通しているのは、チームや個人として大きなスランプや挫折を乗り越えているということだと思います。
井上であれば3年次の箱根駅伝でエノックのケガによる途中棄権があって、しかも翌年の箱根駅伝も故障でエノックが使えないという厳しい状況になった。尾方にしても2年生でアンカーとして箱根駅伝の優勝テープを切り、華々しい活躍をしたけれど、それ以降はストレスもあってものすごいスランプに陥った。
大崎は山梨学大というチームの浮き沈みが一番あった時期に、主将としてキャプテンシーを発揮していた。そういういろんな経験を彼らはちゃんと貯金する能力を持っていたんだと思います。栄光も挫折も、スランプも故障も、その期間のすべてが自分自身の貯金になっていたんだと思います。
また、3人とも入学当初から『将来はマラソンをやりたい』というビジョンがしっかりとあった。世界を意識していたかはともかくとして、箱根の先のマラソンにもフォーカスが向いていたんです」
「“メンタル”と“スピリッツ”は違うんです」
練習方法は選手のタイプや時代によって様々に変わる。だからこそ3選手の活躍には、精神面の在り方が大きく影響を与えていると上田監督は言う。
「一言で精神力や気持ちといいますが、それをどう選手たちが理解するか。“メンタル”と“スピリッツ”は違うんです。達成動機を高めたり、支えたりするのがスピリッツ。やる気の木があるとしたら、その根幹にあるのが『なんのために陸上をやるのか』という“スピリッツ”になる。
これはチームとして育てて行かないといけない。そこが弱いといくら花が咲いても折れてしまう。そこに枝や葉として“メンタル”がついてくる。メンタルな部分は技術的な学習ができるんですよ。緊張して、失敗して、1度はダメだったとしても、そこから学んで修正すればいい。それ以上にスピリッツが確固たることが、非常に重要なんです」