沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
史上最悪レベルの極悪馬場状態。
菊花賞でキセキが証明した純粋な力。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2017/10/23 12:25
泥だらけの菊花賞を制したのは、キセキとデムーロのコンビだった。タイムは遅かったが、パワーの証明にはなったはずだ。
この状況で勝てる馬ならヨーロッパの道悪でも……。
キセキは3月の毎日杯で3着となったあと休養し、夏場の中京、新潟で連勝。神戸新聞杯でダービー馬レイデオロの2着となった「上がり馬」だ。
勝ちタイムの3分18秒9は、史上5番目に遅く、良馬場で行われた昨年の3分3秒3より15秒6もかかっている。上がり3ハロンは前述したように40秒0。昨年の34秒7より5秒3も遅かった。1秒で約5馬身差になるので、最後の3ハロンだけで、昨年より25馬身以上も遅れてしまう特殊な流れのなか、1頭だけ次元の違う伸びを見せた。
道悪が上手いというより、走りのバランスがいいので、力のいる馬場でも普段通りの能力を発揮できるのだろう。こういう走りをする馬が現れると、サトノダイヤモンドが持ち味を殺されたような、ヨーロッパの道悪でどれだけやれるのか、見てみたくなる。
ここ20年ほどの傾向として、菊花賞や天皇賞・春などの長距離GIを勝っただけでは種牡馬として高い評価を得づらくなっているだけに、そうしたチャレンジの意義は大きいのではないか。
「悪天候のなか、奇跡のような競馬をしてくれました」
キセキの父ルーラーシップにとって、これが産駒の重賞初勝利であると同時にGI初制覇であった。ルーラーシップ自身は国内GI未勝利に終わったが、孝行息子が無念を晴らしてくれた。
ルーラーシップも管理した角居勝彦調教師にとって、歴代2位の菊花賞3勝目。JRA・GIは24勝となり、1位の藤沢和雄調教師の26勝に迫っている。
「この悪天候のなか、奇跡のような競馬をしてくれましたね。背腰がしっかりして、我慢が利くようになってきた。これからはずっと大きなレースを使っていけます」
キセキの祖母は、1998年の桜花賞2着馬ロンドンブリッジ。そこからつらなる母系は名門・下河辺牧場が大切にしている一族で、オークス馬ダイワエルシエーロ、アーリントンカップを勝ったビッグプラネットなど、さまざまなタイプの活躍馬が出ている。