野球のぼせもんBACK NUMBER
井口資仁は王貞治元監督の志を継ぐ。
行く先々で優勝し続けた男の本質。
posted2017/10/11 08:00
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Kyodo News
現役に別れを告げるのが信じられないような、かつての若き頃と変わらない豪快かつ力強い弾道だった。
9月24日、井口資仁は自らの引退試合に花を添える本塁打を放ってみせた。
しかも2点ビハインドの9回裏、起死回生の同点2ラン。打球はZOZOマリンスタジアムのバックスクリーンのすぐ右に飛び込んだ。
「今まで自分の中で追い続けた右方向の打球を、今年、ずっと追い求めてやってきている。まだまだ出し切れていない。もう一度、強い、大きな打球を目指してやっているんです」
今年6月の引退発表会見の中で井口はこのように語っていた。
それを現実にした現役最後の本塁打。
打った本人は笑顔でベースを一周していたが、見ている方が泣いてしまうような、あまりに劇的でとても美しい放物線だった。
本塁打は、井口の野球人生の象徴だった。
だが、その井口が本塁打へのこだわりを捨てたことがある。
あの時にその決断を下したからこそ、その後の輝かしい野球人生を送ることが出来たのかもしれない。
それは、プロ入団7年目。まだ福岡ダイエーホークスでプレーしていた頃の話だ。
まずはもう少し前に遡って、井口の足跡を辿ってみる。
大学野球、五輪、東都三冠王……20世紀最後の大物野手。
プロ入りする際は“20世紀最後の大物野手”と言われた。
青山学院大学時代には、今も破られていない神宮球場大学野球記録の24ホーマーをはじめ、アトランタ五輪銀メダリスト、東都大学リーグ初の三冠王などの肩書を引っ提げて'97年のドラフト1位で福岡ダイエーホークスに入団。
印象的な場面で本塁打を放ち、博多のファンを熱く魅了した。