オリンピックへの道BACK NUMBER
谷亮子、白井健三、伊藤有希……。
「体育が苦手」なのになぜ活躍?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2017/10/04 08:00
ゆかで信じられない技を見せる白井。実は“スポーツ万能”というわけではないのが面白い。
「伸びるには、適性というものが大きいのでは」
その手がかりとなる言葉がある。JOCエリートアカデミーのディレクターを務めてきた平野一成氏は以前、こう語っていた。
「伸びるには、適性というものが大きいように思います」
万能ではなくても、ある特定の競技に適しているかどうかがポイントだという意味だ。適性に着目した育成は、近年、盛んになってきた。よく知られるところでは、福岡県が実施するタレント発掘事業がある。セレクトプログラムで選出された小学生から中学3年生を対象に、能力開発・育成プログラムを実施するもので、ある競技に打ち込んでいた子供に、測定で得たデータ、あるいはさまざまな競技を体験する中で他の競技を勧め、実際に転向した子供もいる。
その中から活躍する選手も現れている。
末本佳那はもともとバスケットボールに打ち込んでいたが、勧められたライフル射撃に転向。国際大会に出場するまでになった。
また、フェンシングの日本代表として国際大会にも出ている向江彩伽と高嶋理紗も、同事業でフェンシングへの適性を見出された2人だ。適性というものを物語る一材料であるように思える。
福岡県の事業の場合、一定以上の運動能力の有無は判断材料とされているように見受けられるが、先にあげた伊藤らは、よりはっきりと適性の重要性を示している。
競技において必要な身体能力が高いか否か。
一方で伊藤は中学生の頃、頭角を現すことができた理由を、このように評されることも珍しくなかった。
「やっぱり身体能力が高いですよね」
谷もまた、運動神経や反射神経が際立っていることが強さにつながっていると中学生の頃から言われていた。
もともとの運動能力はともかくとして、ジャンプ、あるいは柔道に必要とされるスキルでは、そのように周囲が受け止められるほどの動きを見せたのだ。
走るのが速くて、球技もいとも簡単にこなしてしまう子供はいる。見るからに運動神経も反射神経もいい子がいる。しかし、アスリートとしてのちのち活躍できるかどうかは、その要素だけでは決まらない。
自分に適した競技に出会えるかどうか、見出せるか。そうした競技との出会いが、自ら「やってみたい」という思いからであれば、さらに伸びる条件は整う。
そこには運も伴うかもしれない。
でも、体育ができなくてもあきらめる必要はないことは、数多くの選手が証明している。