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F1ホンダ提携解消、その本質は。
「研究所」と「青山」に距離はないか。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byHiroshi Kaneko

posted2017/09/24 08:00

F1ホンダ提携解消、その本質は。「研究所」と「青山」に距離はないか。<Number Web> photograph by Hiroshi Kaneko

「現役最強」のアロンソを擁しながら、'15年はコンストラクターズ9位、'16年は6位。今季も9位に沈み、マクラーレンはホンダに愛想を尽かした。

パワーユニット、エンジンそのものの開発に遅れが。

 ホンダは市販車でハイブリッド車を製造している。だから、ハイブリッドターボエンジン、すなわちパワーユニットを導入するF1の新しいレギュレーションは得意分野だという過信がホンダの中にあったのではないか。

 だが2014年から導入されたパワーユニットの開発を、ライバルたちはレギュレーションが固まる前の2010年からスタートしていた。レギュレーション導入からは1年遅れで参戦したホンダだが、実は開発においては3年以上も遅れていたことになる。

 しかもその間、メルセデスはホンダの倍以上のスタッフで開発を進めていたと言われている。ホンダがメルセデスに太刀打ちできないのは、純粋な技術力だけでなく、こうしたリサーチ不足も一因となっている。

 さらにホンダが撤退した2008年から復帰するまでの7年の間に、F1の技術は大きく進歩していた。復帰当初はMGU-H(熱回生エネルギー)やMGU-K(運動回生エネルギー)というハイブリッド分野で遅れをとっていたが、現在最も頭を悩ませているのは、エンジンそのものの開発。7年間の空白がなかなか埋まらないというのが現状だ。失った時間を取り戻すには、戦力を増強するしかないだろう。

F1業界は企業とではなく、人と仕事をする文化。

 2つ目の問題は、こうした判断を誰が下すのかが見えにくいという、大企業特有の弊害だ。復帰会見を行ったのは伊東社長で、提携解消は八郷社長だったことでもわかるように、日本企業では人事異動が頻繁に行われる。

 これは株式会社としては避けては通れないものだろうが、F1の世界では通用しない。チームはもちろん、F1に参戦している企業の代表は少なくとも10年ぐらいのスパンで仕事をしている。F1では企業と仕事をするのではなく、人と仕事をする、という文化があるからだ。

 ホンダにはF1プロジェクトの総責任者がいるが、F1への復帰も、マクラーレンと組むことも、そしてマクラーレンとの提携を解消することも、決断したのは総責任者ではない。9月初旬、イタリアGPの週末に、マクラーレン、トロロッソ、ルノー、そしてホンダの間でさまざまな交渉が行われたものの合意に至らなかったのは、決定権を持っている者がホンダ側にいなかったからだ。

【次ページ】 決定権は「青山」ではなく「研究所」にあるべき。

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