マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「練習は嘘をつかない」は嘘だ。
花咲徳栄の練習場で見た本物の実戦。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/08/28 08:00
圧倒的な打力を誇った花咲徳栄の千丸剛キャプテン。器の大きな選手が育つ指導方法なのかもしれない。
西川、野村に教え込んだ「とっておきのワザ」。
そんな“名人”が、その一本バッティングの合い間に、バットの振り始めの左ヒジの入れ方をチームメイトに教えている。
千丸剛は左打者だから左ヒジになるのだが、内角の速いボールは両腕のたたみ込みという技術がないと、バットの芯で捉えられない。その“たたみ込み”の準備動作になるのが、後ろのヒジの入れ方になる。
脇を締めながら、いかに後ろのヒジを瞬時に胸の前へ入れてこられるか。この動作は、インサイドアウトのスイングの初動にもなるので、内角だけでなくすべてのコースへ合理的にバットを出すことの基本になってくる。
千丸剛がライト方向だけでなく、左中間方向へも球勢の衰えないライナー性の打球を弾き返せるのは、そのせいだ。
そんなとっておきのワザを、3番・西川愛也に、4番・野村佑希に、彼が手取り足取り教えている。
準々決勝の盛岡大付戦のことだ。
野村佑希が盛岡大付の左腕・三浦瑞樹の内角低目を、レフトポール際にライナーで叩き込んだ一打。普通に打ったら、ファールにしかならない難しい足元のボールを、ライナーのホームランにしたとっさの技術。
千丸に打たせてもらったな……。
ついうっかり、そんなふうにつぶやいてしまったものだ。
「練習は嘘をつかない」は嘘だ。
こういう結果になったから言うわけではないが、この甲子園の前、何度か出していただいたテレビ、ラジオの番組の中で、「候補は横浜、大阪桐蔭なんでしょうが、注目のチームは?」と訊かれて、そのたび挙げてきたのが「前橋育英」と「花咲徳栄」だった。
どちらも多彩な実力者の揃ったチーム編成の上に、前者には強い一体感を感じていたし、花咲徳栄には確かな実戦力が見えていた。
「大会で勝つために練習しています!」「甲子園めざして練習しています!」
勝利を目標に掲げて日々懸命に練習しているその方法が、必ずしも勝利につながっていないのではないか。フッとそんなことを思って、ヒヤッとした気分になることがある。
実戦力。
自分で勝手に作った言葉だが、要はこの力を得たいがために練習を重ねているはずなのに、ちょっと方向がズレることはままあるのだ。
「練習は嘘をつかない」は嘘だと思っている。
「理にかなった練習はウソをつかない」
それなら、とことん信じてついていってもよいのではないだろうか。
花咲徳栄の初優勝を眺めながら、あらためてそんなことを感じた<夏>であった。