野球善哉BACK NUMBER
中村奨成が最後に空を見上げた理由。
広陵の全員野球を象徴する一場面。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/08/24 11:30
ワンマンチームでは、甲子園の決勝には来られない。中村奨成も、それをわかっていたからこそ仲間の顔が頭に浮かんだのだろう。
最後の打席、中村は甲子園の空を見上げていた。
広陵は今大会、ベンチ入り18人のうち16人が出場した。出場機会のなかったうちの1人・主将の岩本淳太は、大会後にトミージョン手術を受ける予定の身だ。もうひとりは、1年生で唯一メンバー入りした控え捕手だった。
敗戦時の温情采配ならまだしも、多く選手を出場させながら勝つことができるのは、それだけ戦力になる選手を育てているという証だ。レギュラーと控えを練習試合から隔てるような環境であったなら、これだけ多くの選手を育てることはできないはずである。「考える力」を育んできた成果だろう。
中井は胸を張る。
「甲子園で1番上になるにこしたことはないですけど、人間を育てる、子どもを育てるというところでは、誰にも負けていないと思います」
決勝戦の9回裏、ワンアウト一塁。
甲子園で最後になるであろう打席に向かった中村奨成は、空を見上げていた。打席の中で考えていたのは“控え選手”たちの顔だったという。
「控え選手の顔が思い浮かんできて、このままでは終われないと。そういう気持ちでいたら、自然と空を向いていたんだと思います」
ここでいう控えとは、ベンチの控えではなく、スタンドで声をからして応援してくれる部員のことである。
大会通算記録を数多塗り替えたスラッガーは、メンバー全員で戦っているということを誰よりも感じていたのかもしれない。