オリンピックへの道BACK NUMBER
五輪シーズン直前に思い出の地で。
羽生結弦、心からの恩返しと感謝。
posted2017/08/20 09:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
リンクに姿が見えた瞬間、大きな拍手が起きた。
8月16日、横浜銀行アイスアリーナで行なわれた神奈川区制90周年イベント。登場したのは、羽生結弦だった。
はじめに、エキシビションが行なわれた。同リンクで練習する川畑和愛と青木祐奈に続いて、羽生は『花になれ』を披露する。前日に帰国したばかりの中、4回転トウループを2つ、トリプルアクセルを織り交ぜたプログラムに、再び拍手が起きた。
その後、応募抽選によって選ばれた約70名の小学生以下の子供たちを対象にスケート教室を実施した。
子供たちは4つのグループに分かれ、羽生は1つずつグループをまわって教えた。参加したのはほとんどが、スケートを始めて間もないような子供たち。各グループについているインストラクターと相談しつつ、指導にあたった。
「いつか一緒に試合ができるのを楽しみにしています」
そこにうかがえたのは、決して上からではない目線の低さと、シンプルな言葉、そして比喩や擬態語の使い方の上手なところだった。姿勢について「頭の上からぴーんと吊るされているように」と説明したり、「その姿勢で前へ進みましょう。トントントントン、と」といった具合だ。子供たちの年齢は低い。手振り、身振りを交えながらもいかにして短い時間で、言いたいことを伝えるか。教え方にも、羽生が持っている一面が見えた。
最後は集合した子供たちの前で、こう挨拶した。
「スケートが好きな子、手を上げて。転ぶのが嫌いな子、手を上げて。転ぶのが好きな子、手を上げて。いっぱい転んでOKです。僕もたくさん転んでいます。たくさん失敗しよう。ただ失敗するだけじゃなく、どうして失敗しちゃったのかなって、失敗しないよう工夫を考えよう。そうしたら、絶対うまくなれます」
たくさん失敗しよう、という印象的な言葉のあと、「いつか一緒に試合ができるのを楽しみにしています。それまで、おっさんも頑張る」と笑顔で語り、子供たちや見守る家族も笑顔にして、この日を終えた。