マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園だけじゃない高校球児の8月。
人生を決める大学セレクションとは。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byYuki Suenaga
posted2017/08/15 11:30
高校野球からそのままプロ入りする選手は、育成契約を除けば2016年ドラフトでは40人に満たなかった。大学は大切な受け皿なのだ。
遠投120mが75mに負けることもある。
朝のアップが終わるとすぐに、遠投と50m走が始まる。ここで基本的な身体能力が計られる。
「一応、遠投100mっていうのが、一般的な強肩の境界線になってますが、ウチはそんなふうには考えない。120mが75mに負けることもありますよ」
身体能力は決して数字じゃない。学生野球のあるベテラン監督が、以前そんな話をしてくれた。
「距離を稼ごうとしてボールを高く上げて、放物線で120m投げてくれたって、私、ちっともありがたくない。そんな場面、野球の実戦の中にありますか? それなら、いつでもカットできる高さで75m投げられるヤツのほうが、絶対役に立つ。内野手にしたって、外野手にしたって、低い角度でライナーの軌道でどれぐらい放れるのか。それが肝心でしょ。自分の肩を見てもらうのにボールを高く上げるヤツ、人間的センスを疑うね」
最近は、午前中の体がまだフレッシュな状態の時に守備を見て、それからバッティング。その間に、投手はブルペンでピッチング。食事をはさんだ午後イチからシートバッティングの形式でバッティング、フィールディング、ピッチングの実戦力を見て終了。
おおむね、そんな段取りになっていることが多い。
基準は人間性、家庭環境、野球の好きさ。
「セレクションは初めて会う選手が多いので、僕はその選手の人間性とか、ここまでの野球的ヒストリーみたいなところに興味があるんです。どんな家庭で育った子なのか、普段どんな練習をしている野球部なのか、どれぐらい野球が好きなヤツなのか……そんなことを、いろいろ想像しながら見てますね。それで、面白いなと思った子には声をかけてみる」
今日は監督さんと来たの? と、それとなく訊いた時、「はい!」と元気よく答えたあとに、「新チームの練習もあるのに、自分なんかのために……。ありがたいっす」と、ネットの向こうで見守る監督さんをチラッと見やってから答えた選手がいた。
それほど目立った技量の選手ではなかったが、即決で推薦を決めたという。
「その選手自身の人間性にも打たれたんですけど、それ以上に、その高校の野球部の監督と選手の関係が“見えた!”と思ったんです。やっぱり、3年間健全に育った選手に来てほしいじゃないですか」
試合を見ていると、そのチームが普段どんな練習をしているのかが見えてくる。そういうチームは「いいチーム」だという。