マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
プロアマ協定がない分、より熾烈?
大学野球部が狙う高校生の条件は。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/08/05 11:30
全国47都道府県で行われる甲子園予選。数年後に輝く原石を探すため、人知れず大学関係者がつぶさにワンプレーを見つめている。
「負けてほしい……大きな声じゃ言えませんけど」
内野スタンドも、もうほとんど外野に近い場所だ。そんな所で見にくくないのですか……? と訊くと、こんな話をしてくださった。
「ウチはもう『獲る!』って決めてますから。実力も判断がついてます。試合も練習も見に行って、ウチのグラウンドにも来てもらって、練習参加もしてもらって、学生たちとの実力比較も済んでます。直接いろんな話もして性格もつかめてるつもりですよ。今日は、元気なのを確かめに来ただけ。私にとっては、今日の試合でできれば打ってほしくない。ほんとの本音をいえば、負けてほしい……大きな声じゃ言えませんけどね」
すぐ横で保護者会の父兄たちが話していたので、最後のところは、明確に聞こえたわけではなかったが。
「私たちの勝負は、試合が終わった後ですから……」
そんなことを言い添えてもくれた。
2年生の秋ごろに“内定”が出ることも珍しくない。
学生野球のスカウティングの始動は早い。
これ! と思う選手には、1年秋あたりから、所属する高校の監督さんに興味があるとの意思を伝える。
実戦の様子を見ながら、2年生になれば練習参加を勧めて、間近で実力の“本当のところ”を見極め、会話を重ねて自分のチームに合った性格かどうかを判断する。
大きな故障さえなければ、2年生の秋ごろに“内定”が出ることも珍しくないという。
試合を見に行けば、必ず試合終了まで見届け、球場の外で監督やお目当ての選手が出てくるのを待ち、熱心にアプローチしていることをアピールする。
ファンなら誰でも知っているような学生野球の監督さんが、球場の外でじっと出待ちをしている姿を私は何度も見ている。頭の下がる思いにかられる瞬間である。
プロ野球のスカウトたちは、高校生選手が退部届を出すまで、直接会って言葉を交わすことはできない。プロと高校野球との間には、スカウティングに関するいくつかの制約がある。
一方で、学生野球と高校野球、つまりアマチュア同士の間にはこうした“縛り”がない。いいことだと思う。