Jをめぐる冒険BACK NUMBER
浦和が陥った疑念と負のスパイラル。
ペトロヴィッチ監督解任と、今後。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/08/04 11:30
ペトロヴィッチ監督が作った土台の上に広島は黄金期を築き上げた。浦和の今後次第で、彼の功績はまだまだ大きくなる。
今季のテーマは「90分プレスを掛け続ける」だった。
4月16日のJ1・7節でFC東京に1-0と勝利すると、5勝1分1敗の成績で首位に躍り出る。
とはいえ、ミックスゾーンが笑顔で溢れていたかというと、そうでもない。選手たちが気にしていたのは、失点の多さ。実際、鹿島とのスーパーカップを含む2月、3月の公式戦9試合のうち無失点で終えたのは、ウェスタン・シドニー戦だけ。リーグ戦での無失点は、4月7日の仙台戦まで待たなければならなかった。
もともと浦和は今季、「相手に90分プレスを掛け続け、相手のコートで試合をする」ことをテーマに掲げていた。ホームで逆転負けを喫した昨年のチャンピオンシップを踏まえれば、守備力やゲームマネジメント、駆け引きを磨くことに主眼が置かれてもおかしくなかったが、ペトロヴィッチ監督が打ち出したのは、さらなる攻撃の徹底――。これまで以上にバランスの針を攻撃へと傾け、相手を圧倒することだった。
そこには、2点取られても3点取ればいい、という指揮官の哲学が窺えた。
気づけば選手もメディアも、失点数を気にしていた。
一方、選手にはリーグ最少失点をマークした昨季の良いイメージが強く残っていたようだった。もしかすると、日本代表を率いるヴァイッド・ハリルホジッチ監督が3月の記者会見で「(失点がかさむGKの)西川(周作)はトップコンディションではない」と語ったことも影響したかもしれない。それ以降、ミックスゾーンでメディアが失点について触れる機会が多くなり、選手も課題として受け止める発言が増えたように感じた。
今思えば、落とし穴はこのあたりにあったのかもしれない。
失点を減らすことに意識が傾いたために、ベクトルが後ろに向いてしまったからか、次第に攻撃の迫力が薄れていく。2月、3月の公式戦で7ゴールを奪ったラファエル・シルバが負傷離脱した影響もあっただろう。
さらに、暑さが増したことでACL出場による疲労が表面化して、前からのプレスに後ろが付いて来られない、攻撃参加した選手が戻って来ない、チャレンジ&カバーの関係が甘くなる、といった現象も目立つようになり、歯車が狂い出す。
こうして、いつしかチームは得点力が陰り、失点はかさむという負のスパイラルに陥ってしまった。