濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
格闘技新時代を告げる「KNOCK OUT」。
無敗の18歳、那須川天心の強さに酔う。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2017/02/19 07:00
ダイナミックな戦いぶりも魅力の那須川。天才の名をほしいままにする、格闘技界の革命児である。
拳の打ち合いに持ち込む大胆不敵な戦いぶり。
旗揚げ大会では、現役ムエタイ王者を顔面へのバックキックでノックアウトするという離れ業を演じてみせた那須川。
「RIZIN」でさらに知名度を上げて迎えた今回の相手はボクシングの元世界王者アムナット・ルエンロンだった。
井岡一翔に黒星をつけたこともあるアムナットは、昨年リオ五輪にも出場。キャリアをさかのぼればルンピニー・スタジアムでムエタイ最高峰のベルトを巻いてもいる。
怖いものなしで勝ち進んできた若者が、老獪なベテランに煮え湯を飲まされる。そんな場面なら、これまで何度も見てきた。
しかし「誰も手の届かないところまで行きたい」という那須川の強さは、どこまでも規格外なのだった。
元ボクシング世界王者をパンチで倒す!!
1ラウンド、サウスポーに構えた“神童”がいきなりワンツーを当ててみせる。
戦前、「元ボクシング王者にパンチで勝ちたい」と言っていたとおりの攻撃だ。
この一撃で、アムナットは作戦を変えたのかもしれない。前蹴りを多用しながら離れた間合いを保つ。いつもなら攻撃の起点となる那須川のジャブが当たらなくなった。
「アムナットは腕だけじゃなく、脚も予想以上に長かった。距離が遠くなっちゃいましたね」と那須川。
「でも、4ラウンドに入ったら向こうがパンチできた」。
そこで距離を詰め、ボディブローを右から左へ。アムナットはその場にへたり込み、そのまま立ってこなかった。
まさに圧巻。
元ボクシング世界王者をパンチで倒してしまったのだ。
なぜアムナットが「パンチできた」のかといえば、蹴りの攻防で劣勢だったからだろう。3ラウンドまで、那須川の左ミドル、左ローが何度もヒットしていた。サウスポーの左の攻撃は、オーソドックスの相手の右サイド、開いた面によく当たる。
那須川は、だから正攻法で攻略したわけだが、アムナットは元ムエタイ王者でもある。当然ながら、蹴りも水準以上だろう。
つまり、である。日本の18歳が元ムエタイ王者に蹴り勝ち、その上で元ボクシング世界王者に殴り勝ったということだ。