Jをめぐる冒険BACK NUMBER
鹿島、「理想のサイクル」の証明。
タブーなき積極采配と勝利への渇望。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byKiichi Matsumoto
posted2016/12/05 11:55
リーグ戦の終盤は不調に陥りゴールに見放されていた金崎夢生だが、CSでは川崎戦、浦和戦の3試合で3ゴールを決めて日本一の立役者になった。
宇賀神と遠藤康のファウルについての認識の違い。
2点以上での勝利が義務付けられ、2-1で見事にミッションを成し遂げたチャンピオンシップ決勝第2戦は、“鹿島らしさ”が凝縮されたようなゲームだった。
逆に言えば、“鹿島らしさ”を発揮できたから、第1戦で負った1点のビハインドをひっくり返すことができたとも言える。
唸らされた場面、痺れたシーンはいくつもあったが、やはり印象的なのは得点シーンだ。
1点ビハインドの40分。DFファン・ソッコからロングフィードが繰り出されると、遠藤康が腰を使って宇賀神友弥のマークをブロックし、ドリブルで持ち込んで右足のクロスで金崎夢生のヘディングゴールをお膳立てした。
宇賀神が「軽率だった」と認めながらも「審判によってはファウルを取ってもらえるシーン」と振り返ったこの場面。だが、遠藤にはファウルを取られない確信があった。
「(柴崎)岳がその前にやっていて、『これ、ファウル取らないんだ』と思っていた。そうしたらソッコから良いボールが来たので、お尻をとんと付き出した」
レフェリーの判定基準を見極めたうえでの判断――。それは、判定基準に合わせられず、自滅の感もあった第1戦の反省によるものだったかもしれない。
エース金崎にPKを譲れと食い下がる20歳・鈴木優磨。
79分の逆転ゴールの場面も印象的だった。途中出場の鈴木優磨がドリブルで抜け出し、ペナルティエリア内で背後から槙野智章に倒されてPKを獲得する。印象的だったのは、そのあとだ。PKのキッカーをめぐって金崎と鈴木が何やら言い合いをはじめ、たまらず柴崎が仲裁に入り、永木亮太が鈴木をなだめたのだ。
約6万人の視線が注がれ、勝負を決する重要な局面で、自身がPKを獲得したとはいえ、元々PKキッカーに指名されているエースストライカーに食い下がる20歳の若者と、頑として譲らず、何事もなかったかのようにゴール左隅に突き刺すエースストライカー。2人の強心臓ぶりは驚きを通り越して、面白くもあった。鈴木が振り返る。
「『頼む、絶対に決めるから蹴らせてくれ』と言われたので。あの人だったら譲ってもいいかなと思える。あの人以外だったら譲ろうとは思わないし、逆にあの人ぐらい熱意を持って言ってくる人はいないから」