炎の一筆入魂BACK NUMBER
40回以上の逆転はなぜ生まれたか?
石井琢朗がカープに施した打撃改革。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/09/13 11:40
もともと投手として大洋に入団した石井コーチ。ヤクルトのアンダースロー・山中浩史への対策として、自ら打撃投手まで買って出るほどの熱血指導者である。
シーズン中、全然落ちなかった選手のコンディション。
当然ベストな結果は本塁打であり、安打でつなぐことだろう。だが相手に崩されても、何とかバットに当てて走者を進めれば進塁打となる。
同じ三振でも、見逃し三振では何も生まれないが、ファウルで粘って相手投手に多く球数を投げさせればOK。ワーストの結果にならなければいい。そこから考えることで、打席に立った選手の頭の中は整理された。
2月のオープン戦、広島vs.巨人戦を見ていたプロ野球OBがつぶやいた。
「選手の仕上がりが全然違うな。広島の選手は強く振れている」
昨秋からの成果が発揮されているのかと思っていたが、それは違った。
シーズン半ばにも、対戦相手の番記者がこんなことをつぶやいていた。
「振りが全然違う」
体よりも、心の方が強くなったのかもしれない。
疲労が蓄積するはずの暑い時期にも力強いスイングができるのには、ちゃんとした理由がある。
もちろん広島伝統の猛練習が選手の下地を作ったのは間違いない。シーズン中も本拠地試合のときは若手選手が早出特打を行い、遠征先では試合前後に宿舎で素振りをさせた。若手だけでなく、不調であれば松山竜平や小窪哲也ら中堅選手にも課した。さらに中軸の丸佳浩まで志願参加するなど、宿舎で並んで素振りする光景は日課となった。選手たちは、体よりも心の方が強くなったのかもしれない。
石井ら打撃コーチ陣は、結果に対して注文はつけない。打った、打たないだけで話はしない。
「球種は何を待っていたのか」
「試合前に見た映像とどう違ったのか」
「どういう気持ちで打席にいたか」
結果は簡単にコントロールできないが、アプローチは自分でコントロールできるもの。修正すべきは、そこにある。打席に入るまでの準備がしっかりできているからこそ、迷いなく力強くバットを振れるのだ。指示通り選手がバットを振り、その結果アウトとなっても打撃コーチ陣は選手を責めるようなことはしなかった。