炎の一筆入魂BACK NUMBER
40回以上の逆転はなぜ生まれたか?
石井琢朗がカープに施した打撃改革。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/09/13 11:40
もともと投手として大洋に入団した石井コーチ。ヤクルトのアンダースロー・山中浩史への対策として、自ら打撃投手まで買って出るほどの熱血指導者である。
“石井マジック”は、そのアドバイスの言葉にも。
昨季までの勝負弱い打線はもういない。
今季、逆転勝利は40回を超える。試合中、逆転を誓ってベンチ前で円陣を組むことがよくあった。今季は、広島はそれがことごとくはまった。“石井マジック”があった。
6月26日阪神戦。
8回に1点を勝ち越された直後、円陣が組まれた。
阪神の先発・岩貞祐太の前に、安打は2回の新井貴浩のソロ本塁打のみ。真っすぐとチェンジアップのコンビネーションに苦戦していた。
「もう1回我慢してつないでいこう」
試合前に伝えた見極めを再確認。その後、9回に2死からサヨナラ勝利を飾った。最後は松山が打ち上げた左中間への飛球を阪神外野陣が激突して落球する結末。ベターな打撃をした結果、ベストな結果が着いてきたという試合だった。
9月4日ヤクルト戦もそうだった。
ヤクルト先発・山中浩史には、前回対戦で苦戦していた。緩い球で打者のタイミングを外す投球を持ち味とするサブマリンの球を待とうとすると、120キロ台の真っすぐにも差し込まれた。石井コーチは「直球に泳ぐぐらいのタイミングでいい」と選手に指示。3回に生まれた新井の先制打はまさに、120キロの球に泳がされたような左前打だった。
円陣は組んだが「何も言っていない」(石井コーチ)。
相手投手攻略への指示ばかりではない。
先述の試合で9回にKOした岩貞とのホームでの再戦となった8月9日は、打者が一巡する前に円陣が組まれた。
異例のことだ。
聞けば「何も言っていない」と石井コーチ。
そして、こう続けた。
「相手が勝手に考えてくれるだろう」
結果は岩貞が突如制球を乱して自滅。3回に1アウトも取れずに降板した。