オリンピックへの道BACK NUMBER
ケンブリッジ飛鳥か山縣か桐生か……。
日本選手権の続きで9秒台を夢見る。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO SPORT
posted2016/06/27 17:30
ゴールを切る寸前……グイッと上半身を押し出し見事優勝したケンブリッジ。100m走のライバル争いはますます熾烈に。
この3人の中から9秒台が出る日は近いと確信。
優勝した23歳のケンブリッジは、高校時代から全国大会で活躍、大学進学後も世界ジュニア選手権に出場するなど将来を嘱望される1人だった。だが、怪我に襲われることが多く、昨年の織田記念で桐生らを破り優勝したあとも、故障に苦しんだ。
大学2年生のときに短期間、ウサイン・ボルトらが籍を置くジャマイカの強豪クラブで過ごし、彼の地の選手たちを目の当たりにし、自身の体の弱さを知ったという。
その後、ウェイトトレーニングなどに精力的に取り組んできた。終盤の爆発的な加速力は、ケンブリッジならではの魅力だ。地道なトレーニングの成果が実り、期待されてきた逸材がようやく真価を表し始めたのが日本選手権だった。
山縣は、敗れはしたものの、山縣ならではの良さを示した。
準決勝後に課題としたスタートを、決勝では見事に修正。また課題は残るものの、冷静な自己分析力を持つからこそ、大崩れしない持ち味を見せた。ロンドン五輪で10秒07のオリンピック日本最高記録をマークし準決勝に進んだ原動力でもある。課題をそのままにせず、また修正を加えてくるだろう。
アクシデントに泣いた桐生だが、珍しく見せた涙に、不本意なレースへの悔しさの大きさが見て取れた。それはバネになる。
恵まれないコンディションの中で見せた激闘は、100mの今後へとつながるレースだった。そして互いに意識し、競り合う中で9秒台が出る日も決して遠くはないと感じさせたレースでもあった。