オリンピックへの道BACK NUMBER
偉大なる室伏広治、ついに現役引退。
日本の陸上界に残した、2つの功績。
posted2016/06/28 11:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
YUTAKA/AFLO SPORT
歴史を築いてきた鉄人は、1投目で感じ取ったのかもしれない。
6月24日から26日、リオデジャネイロ五輪代表選考会を兼ねて日本選手権が行なわれた。初日のハンマー投げに出場した室伏広治は、競技終了後、第一線から退く意志を明らかにした。
試合では、1投目で64m74、2投目は64m02、3投目ではファウル。4投目以降に進むことのできる8位以内に入れず、12位。参加標準記録の77m00にも届かず、5大会連続のオリンピック出場が絶たれたのを受けての表明だった。
2年ぶりに出場する日本選手権だった。出場すると発表したのは約1カ月前。
「4年に1回のオリンピックイヤー、挑戦すべきだと思いました」
室伏は振り返った。そこから本格的に準備を始めたが、時間は足りなかった。
「オリンピック、世界選手権でメダルを狙う、目指すには体力の限界を感じています」
だから、退くことを決めたのだという。試合を振り返れば……1投目のあと、何かを感じ取っていたのかもしれない。
2年前までとは決定的に異なる記録で終わったあと、悔いでもなく、失敗と思ったようでもなく、どう言えばいいか、どこか、嘆息が聞こえてくるような表情は、現在の力を認識したかのようでもあった。
挑戦すべきだと考え、取り組んで、しかし、届かない自分がいた。それを自覚したからだったのか、試合を終えたあとはどこまでも穏やかだった。
五輪で金、世界選手権でも金という偉大な記録。
誰もがいつか引退のときを迎える。それは事実だ。ただ、そのときが来ると、あらためて刻んできた輝かしい記録が思い出される。
オリンピックでは、2004年のアテネで金、2012年のロンドンで銅メダル。
世界選手権は2001年のエドモントンで銀、2010年のパリで銅、2011年の大邱で金メダル。
日本選手権は1995年から20連覇。
足跡を振り返る中で、2つの功績が浮かび上がってくる。
ハンマー投げは、日本では競技として決して成熟していたわけではない。
室伏以前に、世界のトップクラスで活躍してきた選手はいない。あえてあげれば、ミュンヘン五輪で8位となった父の重信がいるくらいだ。だからメダリストクラスの選手を指導した経験のあるコーチもいない。