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細貝萌がトルコで手にした充実の時。
理不尽な冷遇から、新天地で得た愛。 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

PROFILE

photograph byIchisei Hiramatsu

posted2016/06/14 07:00

細貝萌がトルコで手にした充実の時。理不尽な冷遇から、新天地で得た愛。<Number Web> photograph by Ichisei Hiramatsu

トルコで日に焼けて、逞しくなったように見える細貝萌。彼の激しいディフェンスは、地元ブルサでも愛されている。

負けず嫌いがむき出しの雰囲気は「嫌いじゃない」。

 ブルサスポルは2度指揮官が交代して、リーグ戦は11位にとどまった。細貝自身、ボランチ、右サイドバックで出たり出なかったりが続いたものの、3月下旬以降は不動の右サイドバックとして先発に定着した。ベシクタシュ戦の退場明けからは5試合連続フル出場して、最終節は5-2勝利に貢献している。必要不可欠な存在となっていた。

 チームはトルコ人に加えて、イギリス、ドイツ、チェコ、スロバキア、アルゼンチン、チリ、セネガル……世界の至るところからメンバーが集まっている。自己主張のぶつかりは、ブンデス以上に激しいものがあった。細貝も英語でコミュニケーションを取りながら、自分の主張をチームメイトにぶつけていった。

「練習中、ケンカになってそのままロッカーに帰っていく選手はいるし、言い合いからスイッチ入ってつかみ合いになった選手もいるし、負けず嫌いがむき出しになっている感じですね。でも僕はこういうの嫌いじゃないし、日本だと感じられないもの。リーグ自体が熱いし、僕にとって凄くいい経験になっているのは間違いありません」

何度も通った場所で、自爆テロが起こったことも。

 トルコではサッカーのみならず、宗教問題、民族同士の対立など様々なことを考えさせられた1年にもなった。

 治安悪化が懸念されるなか4月27日には、ブルサでも自爆テロ事件が起こっている。モスク近くの市場入り口付近で細貝自身も「何度か歩いたことのある場所」だった。町全体にショックが広がっていた。サッカーで全力を尽くしてブルサスポルが勝つことで、彼なりに町に元気を届けようとしていた。

 彼はブルサを愛し、ブルサからも愛された。

 この1年間、サッカー選手として、一人の人間として成長できた実感を持つことができた。

「ドイツとはまた違う文化のなかで生活できたのはいい経験になっているし、サッカーでもこの熱いトルコリーグでやれているのは大きい。ヘルタでは最後のほう、試合に出られなかったけど、今シーズンは25試合やれたし、やっぱり試合に出ていると充実感も違う。(終盤戦は)右サイドバックに専念する形になりましたけど、それも自分ではポジティブに捉えています」

 心身両面でよりタフになった。熱いトルコに触れて、サッカーをできる喜びをあらためて噛みしめることもできた。身を削り、魂をぶつけ、闘い抜く。細貝の熱さが、ブルサスポルの熱さでもあった。

【次ページ】 カテゴリーよりも、自分を評価してくれるクラブで。

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