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武藤嘉紀「俺、ここから大爆発だから」
古巣の練習場で溢れ出た言葉と思い。
posted2016/06/13 11:40
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph by
AFLO
思いがこぼれ出すとは、こういうことなのだろう。こちらが多くを投げかけたわけではない。まさに、独白。その言葉を、包み隠さずに書き連ねたい。
懐かしの場所に、武藤嘉紀は立っていた。古巣、FC東京の練習場。室内で約1時間みっちり体を動かした後、ボールを8個入れた大きな網を自ら肩に背負い、芝生のグラウンドに足を踏み入れた。
「やっぱりここはいい。落ち着くね」
チームカラーの青赤色に塗られたポールに囲まれたピッチ。武藤が約1年前まで汗を流した場所である。ここを離れて、まだ1年。もはやだいぶ前に感じられるのは、その後の紆余曲折があったからである。
武藤のもとに、イングランド・プレミアリーグの名門、チェルシーから獲得オファーが届いたのが、昨年の3月だった。表面化した4月以降は連日メディアが集まり、報道合戦の日々。プロに入ってまだ2年目の若きアタッカーが、世界の名門入りか。サッカーファンのみならず、世間の耳目を集めた。
移籍直後に語っていた、地道な挑戦観。
結局、複数届いたオファーの中から、武藤はチェルシーではなくドイツ・ブンデスリーガのマインツを選んだ。日本代表や人生の先輩、家族や友人といろいろな人に相談した中で、最後は自分で決断した。
「“アンパイ”じゃないですよ。マインツでもレギュラーになれる確保はどこにもない。でも、いきなりステップアップするような、自分の身の丈に合っていないことはしたくない。(中略)これまでの人生の中で、僕は一か八かの勝負はあまりしてこなかった。勝ち目が6対4か五分五分なら勝負に出るけど、それ以下なら賭けない。見ている人からすれば、『つまらない奴だ』と思われるかもしれない。でも、これが自分の成長の仕方。段階を踏むことで、成長を噛み締めていける。明日、一気にメッシみたいになれるなんてサッカーでは絶対にない。ひとつずつ、ハードルを超えたい」
マインツ移籍直後、武藤がドイツで決断の真相を語った時の言葉である。挑戦の度合いは、人それぞれ。ハードルの高低差で、その価値の大小を決められるわけがない。そんな思いを胸に、武藤はドイツ1年目を迎えた。