サムライブルーの原材料BACK NUMBER
細貝萌がトルコで手にした充実の時。
理不尽な冷遇から、新天地で得た愛。
posted2016/06/14 07:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Ichisei Hiramatsu
サッカーの神様は、細貝萌に何度、試練を与えるつもりなのか。
2015年夏。
彼は“飼い殺し”状態になっていたヘルタ・ベルリンに戻っていった。ストレス性発疹で入院した経緯がありながらも、「チームで活躍したい」と決意を持って束の間のオフを過ごした日本を離れた。苦しんだ分だけドイツの地で希望を見出すシーズンになると、誰もが思った。
だが、事態は一向に変わらなかった。紅白戦になれば「ハジは向こうで走ってろ」と、仲間と一緒にサッカーをすることさえ許されなかった。いつの間にかまた、発疹が肌に表れるようになっていた。いくら忍耐強い彼でも、心情を察するに余りあるものがあった。
彼は夏の移籍期限ギリギリで、トルコリーグのブルサスポルへと渡った。
スタメンに食らいつき、必死に闘い、彼はサッカーをやれる喜びを体で感じながら欧州でも有数の「熱いリーグ」で自己を燃やし続けた。
オフで帰国した細貝の顔つきは、前を向こうとした1年前とはまた違い、シーズンを走ってきた充実感が広がっていた。試練を乗り越えた男の姿があった。
アウェー、イスタンブールでの手荒な歓迎。
4月11日、イスタンブール。
ブルサスポルの細貝は首位に立つ名門ベシクタシュとの一戦に向け、アウェーの地を訪れていた。元々ブルサスポルとベジクタシュのサポーター同士が嫌悪感と言っていいほどの激しいライバル意識をムキ出しにする関係性があることに加えて、新スタジアム「ボーダフォンアリーナ」のこけら落としとあって、試合前から異常なほどの盛り上がりだった。
「選手バスから外を見ると騒ぎになっていて、警官がガス銃で対抗しているし、木が燃えているんです。ちょうどスタジアムに入っていくときには『危ないから頭を下げろ』と言われて、僕も頭を低くしました。僕らが乗っているバスにもいろんなものが飛んでくるし、スタジアムの中は危ないものを持ち込めないと言っても、大丈夫なのかなって正直思いましたね」