サムライブルーの原材料BACK NUMBER
細貝萌がトルコで手にした充実の時。
理不尽な冷遇から、新天地で得た愛。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byIchisei Hiramatsu
posted2016/06/14 07:00
トルコで日に焼けて、逞しくなったように見える細貝萌。彼の激しいディフェンスは、地元ブルサでも愛されている。
クアレスマと肉弾戦を繰り広げ、両者退場に。
細貝は右サイドバックで先発。バルセロナやインテルに在籍した元ポルトガル代表のリカルド・クアレスマと激しい肉弾戦を繰り広げていく。
試合終了間際にロングパスで抜け出そうとしたクアレスマにタックルを浴びせると、逆上したクアレスマに顔をつかまれて両チームが入り乱れての乱闘騒ぎに発展した。細貝はこのプレーでイエローカードを受け、騒ぎを起こした当事者としてもう1枚追加されて退場処分となった。試合も2-3で落とした。クアレスマも同様に退場処分となっている。
クアレスマはベシクタシュのスター選手。細貝はほぼベシクタシュサポーターで埋まり沸騰するスタジアムから、攻撃的な視線と罵声をずっと浴び続けていた。
アウェーでスター選手をカリカリさせ、熱いサポーターを敵に回した。退場したとはいえ、己のミッションを淡々と平然と遂行してみせた。
しかしこの日の細貝は体調不良で、実は試合に出ることも難しいほどのコンディションだったという。彼はこう告白する。
「試合の3日前から体がちょっとおかしかったんです。試合前日なんか練習できなくて点滴のみ。自分では(試合に出るのも)無理だと思っていたんですけど、メンバーに入ってイスタンブールまで移動したんです。そしてまた夜に点滴して……。眠れなかったし、夜中も何度か吐きました。口にしたのはバナナ半分ぐらいで、おなかが空いていても食べられる状況ではなかった。そんななかであの試合に臨んで……退場というより負けたことに落ち込んだし、試合が終わっても体が重いなっていう感じでした」
体調不良、退場処分、敗戦。まさに踏んだり蹴ったりの一日。
サポーターが港に集結し、細貝を大歓迎。
その夜、イスタンブールからブルサまでは、チャーターのフェリーで戻った。体は疲弊し、相手サポーターの罵声も耳に残っていた。だが満身創痍の細貝は、地元の港で思いがけない光景を目にする。
「港に着いたら(クラブカラーの)緑の発煙筒をたいたブルサのサポーターたちが待ってくれていたんです。自分の名前を唄ってくれて、叫んでくれて……。いや、本当にうれしくてたまらなかったですね。翌日も町を歩いていて『よくやった』とか『クアレスマよりお前が最高だ』と声をかけてくれましたから」
クアレスマとやりあったホソガイ。
熱さでは負けないブルサのサポーターから最大の敬意を払われ、あれほど重かった体が不思議と軽くなっていくような感覚に陥った。