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内山高志は一体何に負けたのか?
防衛記録、アメリカ進出目前の罠。
posted2016/04/28 11:30
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
いつかこんな日が来るとはわかっていても、実際に来てみるとショックはあまりに大きかった。騒然とする会場をあとにするファンは一様にうつむいていた。涙ぐむ者がいた。中にはやりきれない思いから心ない悪態をつく者もいた。
あの内山高志が負けた─―。
27日、東京・大田区総合体育館で行われたWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチの12度目の防衛戦で、スーパー王者の内山がランキング1位、暫定王者のジェスレル・コラレス(パナマ)に2回KO負けを喫した。2010年にタイトルを獲得してから6年3カ月。絶対王者が無残にも3度キャンバスに沈み、あっけなくベルトを手放した。
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いったい何が起こったのか。悪夢のような陥落劇をリポートする。
初回の攻防で「これはまずい」とだれもが感じたのではないだろうか。挑戦者のコラレスはサウスポースタイルでスタンスが広く、かつスピードがあっていかにもやりづらそうなタイプだ。内山はコラレスのスピードについていけず、あっさりと侵入を許してしまう。
ラウンド終盤には左右のフックを浴びて、早くもロープ際に後退。重厚で多彩なジャブとステップワークを武器に、常に自分の距離をキープしてきた内山が、今までに見せたことのない姿だった。
コラレスの公開練習を視察した際の、佐々木修平トレーナーの言葉が頭をよぎる。
「(コラレスは)スピードがあって、才能はあると思う。けっこう瞬発力があるので、いきなり踏み込んで打つパンチには気を付けたい」。
このあと「もちろん内山さんなら大丈夫でしょう」と付け加えるのを忘れなかったが、若きトレーナーの一抹の不安は、不幸にも現実のものとなった。
前がかりの内山に、左カウンターがドンピシャ。
2回に入っても、荒っぽくパンチを振りまわす挑戦者が優勢だった。「やり返そうとした」という内山が前がかりになる。そこにコラレスの左カウンターがドンピシャのタイミングで決まったのだからたまらない。
キャンバスに崩れ落ちた内山は立ち上がろうとするが、一度バランスを崩し、まるでスローモーションを見ているかのような動きでゆっくりと立ち上がる。ダメージは深刻だ。
試合再開後、コラレスのアタックを浴びて今度はもつれるようにして2度目のダウン。WBAは1つのラウンドで3度ダウンすると自動的に負けになる3ノックダウンルール。これであとがなくなった。