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内山高志は一体何に負けたのか?
防衛記録、アメリカ進出目前の罠。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2016/04/28 11:30

内山高志は一体何に負けたのか?防衛記録、アメリカ進出目前の罠。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

“絶対王者”内山高志の敗戦は衝撃だった。防衛記録、アメリカ進出目前での敗戦を彼はどう受け止めているのだろうか。

年齢か、ガードが下がるクセか、モチベーションか。

 残り1分強。アリーナは騒然。リングの上で、内山の必死のサバイバルが始まった。それは絶壁に渡されたロープの上を、強風にあおられながら綱渡りをするようなものだった。コラレスの猛攻を辛うじてしのいでいた内山だったが、最後は下がりながら再び左を浴びてロープ際にバッタリ。KOタイムは2分59秒だった。

 内山の敗因を分析するのは簡単ではない。36歳という年齢からくる衰えがあったのかもしれない。ガードが不用意に下がるという悪いクセを指摘する声もあるのかもしれない。あるいは本人は否定したが、モチベーションの低下ということも考えられるだろう。確実に言えることは、今回のコラレス戦は、これまでと少し違った経緯をたどって実現したということだった。

2度も大物との対戦が決定直前で流れた。

 かねてアメリカ進出を希望していたものの、ビッグマッチがなかなか実現しない内山に対し、ファンやメディアの間で「内山を海外に行かせないのはかわいそうだ」といった声が大きくなったのは2年ほど前だった。こうした声に後押しされ、11度目の防衛戦が発表された昨年11月、陣営が2016年のアメリカ進出を記者会見で明言。試合を中継してきたテレビ東京も全面バックアップを約束し「いよいよ内山もラスベガスの檜舞台に立つのか」というムードが作られた。

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 昨年大みそかのV11戦が終わると、陣営はアメリカ進出に向けて動き出した。そして内山も納得の実力者、前WBA世界フェザー級スーパー王者のニコラス・ウォータース(ジャマイカ)と「ほぼ決まり」という段階にこぎつけた。しかし最終的に米国のテレビ局が首を縦に振らず、話が暗礁に乗り上げるうちに、WBAから正規王者ハビエル・フォルトゥナ(ドミニカ共和国)との対戦をオーダーされ、交渉の相手が変更。ところがこれも折り合いがつかず、一度は膨らんだ夢がはかなくもしぼんだ。

 V12戦の相手に落ち着いたコラレスは、暫定王者の肩書きを持つとはいえ、ウォータースやフォルトゥナに比べると格下の感は否めない。期待が大きかっただけに、今回のマッチメークは「がっかり」という印象が強かったのだ。コラレス戦が決まった直後、普段はあまりマイナスなことを口にしない内山が、次のように語っていたのが印象深い。

「フォルトゥナとやるイメージが強かったので、だいぶイメージトレーニングはしていました。その前はウォータースでほぼ決まりという話も聞いていた。こうなるとは思っていなかったので、モチベーションが下がった部分はありますね」

【次ページ】 長期政権の王者が負けるのは早いラウンドが多い。

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