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内山高志は一体何に負けたのか?
防衛記録、アメリカ進出目前の罠。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2016/04/28 11:30
“絶対王者”内山高志の敗戦は衝撃だった。防衛記録、アメリカ進出目前での敗戦を彼はどう受け止めているのだろうか。
長期政権の王者が負けるのは早いラウンドが多い。
一方、古今東西のチャレンジャーがそうだったように、メディアを含むチャンピオンの周囲が「軽い相手」と見たコラレスは、虎視眈々と内山の首を狙い、地球の裏側で周到な準備を重ねていた。トレーナーのフアン・モスケラ氏が試合後打ち明けた。
「内山はリーチがあるハードパンチャーだ。長い距離で戦ってはいけないと考えた。だから最初から、こちらから攻めていかないといけない。その作戦が当たったんだ。作戦通りの結果になり、トレーナーとしてうれしく思うよ」
コラレスは19勝のうちKO勝ちはわずかに7つ。ニックネームはスペイン語で「インビシブレ」。“見えない”という意味だ。つまりは対戦相手が「見えない」と感じるほどディフェンスがいいということで、内山陣営も挑戦者をディフェンシブな選手、つかまえづらい選手、と分析していた。その裏をかいた先制攻撃。コラレス陣営にしてみればしてやったりであり、内山の強打を恐れず果敢に攻めた勇気と実行力は称賛に値した。
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思えば長期政権を築いた世界チャンピオンが敗れる時は、早いラウンドで敗れることが多い。WBC世界スーパーフライ級王者だった徳山昌守は、2004年のV9戦で川嶋勝重に1回TKO負け。WBC世界バンタム級王者の長谷川穂積は'10年、11度目の防衛戦でフェルナンド・モンティエル(メキシコ)に4回TKOで王座から陥落した。2人とも類まれな実力を持ちながら、アゴが弱いという点でも共通している。
両選手とも痛恨の1敗を喫したあと再起し、徳山はベルトを奪い返し、長谷川は2階級制覇を達成した。連続防衛がストップしたとき、徳山と長谷川はともに29歳だった。試合後「今はまだ終わったばかりで何も考えられない」と声を絞り出した36歳の“前”スーパー王者は、どのような決断を下すのだろうか。