オリンピックへの道BACK NUMBER
睡眠と同じくらい毎日ずっと水泳を。
北島康介、28年間の幸せな競技生活。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byYohei Osada/AFLO SPORT
posted2016/04/12 17:00
日本選手権で敗れた後、記者会見で引退発表をした北島。最後まで清々しい笑顔だった。
北島の強さは、その「信じる力」にある。
2002年、アジア大会の200mで世界新記録を出している。そのひと月前、パンパシフィック選手権では右ひじの故障で棄権を強いられた。それからわずかな時間での大会で、世界記録を出したのである。
北京五輪100m金メダルも容易ではなかった。
予選、準決勝を全体の2位で通過。ともにトップは、予選と準決勝で五輪記録を更新した故アレクサンダー・ダーレオーエン(ノルウェー)。しかし北島は、決勝で世界新記録を出してレースを制したのである。
逆境への強さは、挑む意志の強さの表れでもあった。同時に、自身への信念の強さでもあった。
多くのアスリートを取材してきて、彼らであっても、いざ勝負をかける場を前に不安に苛まれることがあるのを知った。大舞台で自分を信じようとしても、可能性を信じようとしても、どうしても信じきれない。そんな隙間が生じることはある。
北島の強さの1つは、その「信」にあった。
北京五輪の大会もそうだが、大会までの期間にも、故障に悩まされたりしていた。それらをはねのけられたのは、最後は自分を信じられたからにほかならない。
果てしなく厳しい練習が、北島の信念を培った。
その「信」の下支えとなったのは、日々の練習だ。
平井伯昌コーチは、北京五輪後の取材でこう話していた。
「かなりきつい練習させてきたんですよ。それを乗り越えてきたからこそなんですね」
日々の地道な練習を乗り越えさせたのも、より速く、より強く、成長した将来の自分を信じていたからだ。結果を受け入れつつ、それでも前へ進もうとした。
そんな姿勢があってこそ、2016年まで世界を目指して歩んでこられた。挑戦をやめなかった。自分を信じる強靭な心が、北島をトップスイマーへと上らせ、長年にわたる競技生活を支えてきた。言い換えれば、挑戦する気持ちを保持し続けた。その長さもまた、賞賛に値する。それを感じるからこその、拍手だったろう。