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欧州のピッチ上は「暴言」だらけ?
あまりにひどいサッカー単語帳。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2016/02/10 10:30
ナポリのサッリ監督は、よく言えば兄貴肌、悪く言えば柄の悪いパーソナリティ。発言にはくれぐれもご注意を。
観客席でも、物騒なフレーズが飛び交う。
リーグの懲罰委員会がTV映像を裁定の証拠として採用し始めた'99年9月以来、選手たちは口元を手で隠しながら話すようになった。
だが、今回のデロッシの暴言に当局はお咎めを出さなかった。あまりに数が多すぎて、すべての暴言を網羅することはできないのだ。
物騒なフレーズは、観客席からも飛んでくる。
北伊ベローナの本拠地ベンテゴーディで、もはや数十年来ナポリのサポーターを待っているのは「ヴェズヴィオ火山よ、不潔で薄汚いナポリ人どもを焼き払え!」というコールだ。
火山国日本の出身者としては不謹慎極まりない内容に思えてしまうが、ナポリ・ファンも黙っちゃいない。
彼らは、ベローナの町の名を世界に知らしめる文学作品『ロミオとジュリエット』(※イタリア名『ロメオとジュリエッタ』)に着想を得て、「ジュリエッタこそ淫売ビッチだろ!」と、皮肉たっぷりにやり返すのだ。
裁判官が説明する、2016年時点の差別表現観。
侮蔑か、差別表現か。それともユーモアか。
これらの境目はどこにあるのか。
「差別を禁ずる法律としてはイタリア共和国刑法205条、通称“マンチーニ法”が有名だ」
そう教えてくれたのは、熱烈なユベンティーノである友人の刑事裁判官だ。
刑法205条は、人種、種族、国籍、宗教上の差別行為を禁止する目的で'93年に公布された法令で、法成立を推進した当時の内務相の名前をとって、“マンチーニ法”と呼ばれている。
「実は、マンチーニ法には性的マイノリティへの差別を規定する項目がない。それでも、現在は人種差別と性的マイノリティに対する差別は等しく重大だと考えられている。'80年代と比べて今は自然環境への関心が高まったように、物事の常識や世論は時代によって変わるからだ。よって、侮蔑的行為やその内容についての法解釈も然りだ」
おかげで調べる資料と仕事は増えるばかりさ、と苦笑しながら、彼はこう付け加えた。
「サッリの事件について言うなら、中傷の解釈一つとっても、時代の急激な変化に法が追いついていないのかもしれないな」