スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
希望より早く訪れた“ジダン監督”。
会長が野放しならば苦境は必至?
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2016/01/05 12:00
レアル・マドリーが大切に大切に育ててきた“ジダン監督”は意外にもシーズン途中での登板となった。
会長の意向とファンのご機嫌の狭間で。
ハメス・ロドリゲスやイスコ、トニ・クロースらを1試合でも先発から外せば選手との関係悪化を煽られ、誰もが望んだスター揃いの先発メンバーを送り出しても「会長の言いなり」と叩かれる。攻守に周囲を納得させるプレーを構築できていなかったことは確かながら、誰を出し、誰を外してもあら探しをする報じ方には悪意を感じることすらしばしばあった。
とはいえ、実際問題としてベニテスが選手たちの支持を得られなかったことも事実だ。
会長の意向に沿い、ギャレス・ベイルを中心に据えたシステムと選手の配置を模索する傍ら、配慮を欠いた発言でクリスティアーノ・ロナウドやセルヒオ・ラモス、マルセロ、ハメス・ロドリゲスら中心選手の不興を買ってしまったことは彼の失敗だった。
ただこれまで報じられてきた選手たちとのトラブルを振り返ると、そのほとんどが先発落ちや途中交代、起用法に対して選手側が不満を露わにしたことが原因となっている。つまりは選手の側にチームより個人の利益を優先する言動が目立っていることがそもそもの問題なのだ。
ジダンというカリスマの力は大きいが……。
ほろ苦いゴールラッシュとなったラージョ戦後、チームに6日間のオフを与えたベニテスはリバプール郊外の半島にある自宅に引きこもり、家族と静かにつかの間のクリスマス休暇を過ごしたという。
その間、スペインではベニテスの解任が既成事実のように報じられ、クラブはソシオに電話アンケートを行いベニテスの評価と後任の希望を調査するなど、着々と「Xデー」に向けた準備が進められてきた。
そしてバレンシアと2-2で引き分けた翌日の1月4日。ペレスは冒頭の通り簡潔にベニテスの解任を伝えた後、ジネディーヌ・ジダンの新監督就任を発表した。
監督としての経験不足は否めないが、2シーズン前にアンチェロッティのアシスタントとして現チームを指導しているジダンは、シーズン半ばの引き継ぎ役には相応しい人材である。何よりベニテスへの信頼を失って久しい選手たちはもちろん、チームとクラブに不満を溜め込んでいるファンやメディアに希望を与えるという意味で、カリスマ性抜群のビッグネームを抜擢する効果は大きいだろう。