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センバツ優勝投手・平沼をショートに。
日本ハムの“一歩先を行く”スカウト。
posted2015/12/17 10:40
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
PHOTO SPORT/AFLO
ぶったまげた。
その一報を報道で見た時の、最初の印象である。
今秋にドラフト指名された新人選手の入団発表がほぼ終わった。
その交渉過程の中で、日本ハムがぶち上げたとある構想に唸らされたのだ。
「ショートでと考えています。彼にはやれる力がある」
その構想とは、今春のセンバツで、福井県はおろか、北陸勢に初めての甲子園優勝旗をもたらした敦賀気比のエース・平沼翔太(日本ハムドラフト4位指名)をショートで育てようというものだ。
平沼は140キロ中盤のストレートと、カットボール、スライダー、チェンジアップを駆使した巧みなピッチングが持ち味の本格派右腕だ。そんな彼を、内野手の中では限られた人間しかこなせないショートで育てようという。この球団の考えは、一歩先に行っている。
サードや野手ではなく、ショートにする意味。
もともと、平沼の評価に関しては、「プロでは野手」という見方が多かったのは事実だ。他を圧するような球があるわけでなく、上背が高くない平沼の球には、ボールに角度がつかない。まとめる上手さが高校生離れしていたとはいえ、この先の伸び率がイメージできないというのが大方の判断だろう。
ならば、3年生になってからは主に4番を務め、甲子園の3大会で40打数15安打1本塁打という成績を残した彼の打棒に未来を見るというのは、当然の評価といえよう。
しかし、そうなった場合に平沼が守る場所といえば、サードか登板時以外に守っていた外野手とみるのが一般的だろう。それが、ショートだという決断には、日本ハムのスカウティングと育成の奥深さがうかがい知れるというものだ。
この報道を見たとき、ふと大渕隆スカウトディレクターが以前に語っていた言葉を思い出した。それは、入団して間もない大谷翔平が二刀流に挑戦することについて、大渕氏の語っていた言葉である。
「可能性にふたをしないということです。彼の持っている能力を考えると、選択肢を狭めないようにすることがまず大事なんです。投打両方に魅力があるわけですから、入口は広くしておこうと。それが二刀流という形になっている」