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彼女の人生とラグビーはどこで交差した?
五輪決めたサクラセブンズの生き方。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2015/12/02 11:00
リオ五輪アジア予選でグアム代表と戦うサクラセブンズの竹内。俊敏性を活かしたプレーがジャパンの強みだ。
とにかくラグビー選手になりたかった少女は……。
ヘッドキャップをかぶり、相手の間をするすると抜けていくFWの横尾千里は、家族の影響もあって子どものころからラグビーが大好き。國學院久我山中学に入学すると、「将来のラグビーのため」と思って陸上部に入部。内進生として高校に進むと、満を持して全国制覇を誇る名門ラグビー部の門を叩く。
「入れてください」
困ったのは先生たち。子どものころからラグビーをプレーしていたとしても、高校生男子の中にまじってプレーするのはさすがにむずかしい。しかし、正解があった。
「中学の男子部だったら、いいんじゃないか」
年下の男の子たちとプレーし始めたが、これがよかった。
「男子のスピードに慣れていると、女子はゆっくりに見えてしまって」
「専業主婦」として、家族の犠牲も意識した。
チーム最年長、33歳の兼松由香はドロップキックを担当する重責を担うが、一方で8歳の娘を持つ「専業主婦」でもある。しかし、代表合宿、遠征は年間で200日ほどにも及ぶ。愛娘に会いたくても、会えない。
オリンピック出場を決めた秩父宮には、その娘さんの姿があった。試合が終わって、「ギュッ」と娘を抱きしめたときの気持ちは、どんなものだったか。
誤解を恐れずにいえば、彼女は家庭を犠牲にして、オリンピックを目指してきたのだ。家族の理解がなければ、到底ラグビーは続けられなかっただろう。
五輪決定後、サクラセブンズは再び海外へ……。
サクラセブンズの面々は、レールに乗ってラグビーをプレーしてきたわけではない。
人生のどこかで、楕円球と出会う必然があったのだ。
偶然にも、オリンピックでセブンズが正式競技として採用され、彼女たちの人生は変わった。
オリンピック出場を決めた翌日、彼女たちは、「ワールドラグビー 女子セブンズシリーズ2015-2016」の第1戦、ドバイ大会に参加するために異国へと旅立った。
12月3日からは、イングランド、オーストラリア、スペインの順番に対戦する。強行日程での大会となるだけに、サクラセブンズの「素の力」が問われる。
いよいよ、オリンピックに向けてのシーズンが始まった。リオデジャネイロが彼女たちを待っている。