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ソフトバンク「三軍」出身者たちの矜持。
トライアウトで見せた“再生工場”の力。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2015/11/11 11:50
トライアウトが、チームのユニフォームを着る最後の機会になる選手もいるだろう。
「ここで頑張っても二軍か」という気持ちも。
中村は「僕は楽観的なんで」と苦笑ながらに三軍の現状を説明してくれたが、「危機感」という言葉を用いて補足したのが日高だった。
「実戦をたくさん積めるからこそ競争が激しい。ここ(トライアウト)に来た人はもちろんですけど、若い選手なんかは特にそうで、『二軍で結果を残せなかったら三軍に落とされる』という危機感を常にもってやっています。全体として言えば、そこで出る相乗効果みたいなものがあるからこそ、いつも強いチームでいられるんだと思います」
日高は、相乗効果の波に乗ることができなかった自分を悔いるように、本音を漏らす。
「正直、『ここで頑張っても二軍か……』という気持ちはありました。『どうやったら一軍に上がれるんだろう』とずっと考えながら野球をしていたつもりですけど、一軍は果てしなく遠かったですね」
弱肉強食のシステムが浮き彫りとなる一方で、「再生工場」としての役割を果たしているのもソフトバンク三軍の大きな特徴である。
最速153キロのドラフト1位・北方も参加。
「成長している実感はありました」。そう話してくれたのが4年目の北方悠誠(21歳)だ。
'11年にドラフト1位でDeNAに入団。「最速153キロの本格派」と称された逸材もプロでは制球難に悩まされ、わずか3年で戦力外に。昨年のトライアウトでは球速が140キロに届かず、コントロールもバラついていたことについて「イップスです」と衝撃の事実をカミングアウトし、周囲を驚かせた。
思い切って腕を振って投げられない。投手、特に北方のような速球派にとっては致命的な“心の病”だが、今季、ソフトバンクと育成契約を結んだことが再起への第一歩となった。
DeNA時代から知る三軍投手コーチの入来祐作から、「いつでも何でも言ってこい」と背中を押され、練習でも「とにかく投げてみろ」と誠意を尽くされたと北方は語る。
「僕は、試合前でも『ブルペンに入りたくないわ』と思っているような人間だったんですけど、入来さんとか三軍の首脳陣の方たちは『とにかく入れ、どんどん投げろ』と、いつも声をかけてくれていました。試合でも使ってもらいましたし、ありがたかったですね」