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ソフトバンク「三軍」出身者たちの矜持。
トライアウトで見せた“再生工場”の力。 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byGenki Taguchi

posted2015/11/11 11:50

ソフトバンク「三軍」出身者たちの矜持。トライアウトで見せた“再生工場”の力。<Number Web> photograph by Genki Taguchi

トライアウトが、チームのユニフォームを着る最後の機会になる選手もいるだろう。

SB組でただ一人一軍経験のある日高亮。

 ソフトバンクの三軍制度は、その回避と戦力の底上げが最大の狙いである。試合は非公式戦。四国やBCといった独立リーグ、社会人チームなどが相手とはいえ、年間70試合以上と二軍並の日程をこなす。

 試合を数多くこなすことは、それだけ結果をシビアに判断されることになる。白根を含め、今年トライアウトに参加した4人全員は三軍でしのぎを削り、淘汰されたということだ。しかし、過酷な現実を突きつけられながらも、彼らは三軍での経験を否定的に捉えてはいなかった。

「客観的に見ても、すごくいい制度だと思います」

 日高亮(25歳)は三軍について、真っ先にそう答えた。ヤクルト時代の'12年に66試合に登板し3勝、15ホールド。4人のなかでただひとり一軍経験のある左腕は、トライアウトで「野球人生で初めてマウンド上で吐きそうになった」ほどの緊張感を抱いたという。戦力外通告を受けてから、打者相手にボールを投げられず満足のいく調整はできなかったそうだが、打者3人に対し四球、セカンドゴロ、ショートゴロ。最低限の仕事を果たせたと、胸をなでおろした。

 最低限のパフォーマンスを具現化できたのは、二軍と三軍合わせて45試合に投げていたことも少なからず関係している。

「ヤクルト時代は二軍でも試合に出られない選手はたくさんいましたけど、ソフトバンクはどの場所でも試合に出られますからね。実戦で力を伸ばしていける分、自分の力が全く出せないってことはないと思います」

三軍の存在で、“腐る”選手が現れにくい。

 二軍でもくすぶっている状況を自認してしまえば、いくらプロであっても“腐ってしまう”選手がどうしても現れる。しかし、三軍を明確化しているソフトバンクには、そのような負の連鎖が全くと言っていいほどない。

「だから強いんです」。そうはっきりと言ったのが中村恵吾(26歳)だった。

 '14年に育成枠で入団し、わずか1年で戦力外となった中村は、トライアウトで4人を相手に1死球1安打。納得のいく投球を披露できなかったが、「プロでは言い訳ができない環境でやらせてもらっていましたから」と潔かった。三軍では27試合で投げながら、二軍での登板はわずか4試合。それが現実です、と言わんばかりに中村は言葉を結ぶ。

「二軍で悪くても三軍で実戦で投げさせてもらえるし、その時の調子の悪い自分と向き合わせてもらえる部分はありましたね。僕も(BCリーグ)富山にいたんで語弊を承知で言いますけど、三軍の相手って独立リーグとかなんですよ。二軍から落ちてきた選手って、そういうところで投げて自信をつけていくんです。僕も抑えられた試合ではそうでした。結果が全てなんで、戦力外になってしまったことに関しては自分なりに受け入れています」

【次ページ】 「ここで頑張っても二軍か」という気持ちも。

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