マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校生離れしたフォークと直球。
ドラフト期待、佐藤世那の球を受けた。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byMasahiko Abe
posted2015/10/21 16:00
独特な腕の振りから繰り出される球で甲子園準優勝、U-18準優勝に貢献した佐藤世那。
見たことのない角度での腕の振り。
<アーム>だと、多くの人が心配した腕の振り。円弧が大きい。スリークォーター、いやむしろ、サイド。本人の意識はオーバーハンドのはずだ。
見たことのない角度だ。
思わず想像したのが<フラフープ>。わかる人にしかわからない。
右腕を大きく振り回してくるのに、リリースの瞬間にピタッと全身のタイミングが合う。
これが難しい。
正面から2つの眼で見てこんなに難しいタイミング。甲子園で、U-18で、多くのバットマンたちのフルスイングを消去してきた天然の<時間差攻撃>。
1年に一度でよい。もし、スカウトたちが実際にピッチングを受けて投手の球威、球質を吟味できる日があったら、仙台育英・佐藤世那の評価はまったく違ったものになっていただろう。
ピッチャーは受けてみなくちゃわからない。
家では心の動揺を出さなかった。
「春からずっと調子がよくなくて、なかなか世那らしいピッチングができなくて、育英の<1番>っていうプレッシャーもあったんじゃないかと思うんですけど、家ではいつも普通にしてましたね。夏の予選で、あんなに打たれて、いくらも投げないうちに交代させられて、それでもうちに帰ってくると、ぜんぜんいつもの世那で、心の動揺みたいなものを出さない。そこだけは、すごいと思いましたね。こっちのほうが、なんて声かけようかって気を遣ってしまうほどで……」
母上・ルリ子さんが振り返ってくれた。
「それでも、朝はやっぱり起きてこない。世那ー! 世那ー! って何度起こしても、自分が起きようと思った時間にならないと起きてこない。ほんとに、マイペース君なんですよ」
動じない。
そんなわけがない。そういう言い方は<人間・佐藤世那>に対して失礼であろう。
これだけ大舞台で実力をフルに発揮できるピッチャーが、自分の現状や置かれた立場に鈍感であるわけがない。
おそらくは、自分の許容量を大きく上回る重圧を両肩にいやというほど感じつつ、それでも何も背負っていないように装いながら過ごした呻吟の時間は少なからずあったはず。
家族にすら悟られず苦境を乗り越えてきた強さと人としての奥深さ。高校生とは思えない<貫禄>を漂わせる彼のマウンドでの居ずまいの理由が、今、少しわかったような気がしている。