マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校生離れしたフォークと直球。
ドラフト期待、佐藤世那の球を受けた。
posted2015/10/21 16:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Masahiko Abe
この夏の仙台育英高・佐藤世那投手の変わり身は、あざやか、お見事、を通り越して、神がかって見えた。
7月の宮城県予選。
先発した準々決勝で、初回にいきなり3連打を浴び2点を許して2回でマウンドを下り、続く準決勝でもやはり初回の立ち上がり、2連打に連続四球で1点を奪われ、満塁の走者を残したまま、1死もとれずにマウンドをあとにする。
ところがどうだ。
翌日の決勝戦には一転、先発の8イニングを5安打10奪三振の無失点に抑え、まるで別人のピッチングで甲子園出場を勝ちとるのだから、明日のことはわからない。
そして、<本番>では準優勝投手。さらにその後の国際試合「U-18ベースボールワールドカップ」でも主戦格として奮投を続けたことは、いまだ記憶に新しいところだ。
世那を変えた佐々木監督の言葉。
「明日のことだけ考えろ! って言われました、先生から」
予選・準決勝のマウンドから屈辱の降板。ダグアウトに帰ってきた佐藤世那投手に、佐々木順一朗監督は叱咤とともに、彼が前を向ける言葉を贈った。
「人は一瞬で変われるから、って言ってくれて。ここまでのことはここまでのこととして、先のことだけ考えて、切り替えていこうと思いました」
明日も世那でいこうと思うが、どうか?
打線の強打で準決勝を勝ち上がり、戻ってきた学校のグラウンドで佐々木監督が選手たちに問うと、全員一致で「世那でお願いします!」。即決で決まった。
「ならば、秋は世那が頑張ってセンバツに進めたんだから、今度は打線が頑張って、世那が10点取られたら20点取ってやれ。20点取られたら30点取ってやるんだぞ」
佐々木監督のハッパが効いて、17安打13点の猛攻で圧倒。一方的な展開で夏の甲子園を決めたものだ。
私たち<伝える側>の者が心配していたのは、彼のヒジの具合だった。
春先からの公式戦で彼らしい投げっぷりがなかなか見られなかったのも、伝えられるヒジの不調のせいといわれていた。