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参加型レースの最高峰「スーパー耐久」。
首位に立つ埼玉トヨペットの挑戦!
text by
大串信Makoto Ogushi
photograph bySAITAMA TOYOPET
posted2015/10/15 10:45
前列左からドライバーの番場琢、平沼貴之、服部尚貴。スーパー耐久で「埼玉トヨペットGreen Brave」が初優勝を飾った時のチーム記念写真。
人出が足りない、ノウハウも無い……。
まったくレースの下地がないまま市販車ディーラーの社員達が、「レースにはどうすれば参加できるんだろう、ライセンスはどうやれば取れるんだろう」というレベルから活動を始めたと言う。だが何も知らない分、怖さも知らなかった。「どうせ出るなら市販車ベースの車両で参加できる最高峰、スーパー耐久シリーズに参戦しよう」と決めてしまうのだ。当初、室長以下メカニックたち3人で発足したチームは早速闘うための車両製作に取りかかる。
「1年目はクルマの製作方法もわからないので県内のチューニングショップと組んで車両を製作し、ノウハウを教えてもらいました。また、人手が足りないので各店舗のメカニックに募集をかけて作業を手伝ってもらいました」
社内の業務としてレーシングチームを立ち上げるのは容易なことではない。近年のスーパー耐久はレベルが上がり、参加型レースとは言ってもそれなりの予算も技術も要求される。「86の楽しさを自ら知って販売を促進する」という漠然とした目的だけでは会社は動かない。
「まずはメカニックの養成につながると考えました」と岩田室長は言う。「レースの現場では、スピードと正確性、応用力、瞬時の判断力が求められます。今の若い店舗メカニックには、決められたことを決められた時間でこなすことはできるが、そこから外れたことには適応できない傾向が見られます。でも本来は、どういうお客さんが来てどんな対応を求められるかわからない、と待ち構えているのが正しいと思います。そういうメカニックを育てるには、レースは良い研修の場になります」
また育成以前、人材確保にもつながるだろうと岩田室長は読んでいる。
「今、ディーラーはメカニックの人材確保に苦しんでいます。ただでさえ人材不足なのに、若者のクルマ離れが言われる中、メカニック志望者もクルマ自体を楽しむことは置き去りにして、単なる安定した仕事として取り組む人が増えているという問題もあります。今後は、クルマ好きなメカニックでないとできないサービスの重要性が増すと思います。そのとき、レース活動などしているディーラーは他にはあまりありませんから、クルマを本当に好きな人材の採用につながるのではないかなと期待しています」
店舗での作業がレースでも役に立った!!
とはいえ、ゼロから始めたレース活動は苦難の道をたどることになった。最初はマシンを走らせるだけでも一苦労だった。しかし、ディーラーチームならではの経験も積んでいる。
「最初の年のあるレースで、決勝の朝に電子系のトラブルが起きていきなり走らなくなってしまったんです。当時頼りにしていたチューニングショップの方にも原因がわからず、困っていたとき、我々のメカニックの1人がパソコンを出してきて、店舗でするように故障診断をしたんです。その結果、この辺ではないか、という目安をつけて応急処置してなんとか決勝に間に合って走れるようになりました。1年目の試練でしたが、通常の業務がレースに応用できるということが証明できたケースでもありました」