モータースポーツ解体新書BACK NUMBER
WEC第6戦 富士6時間耐久で、
最先端ハイブリッド技術に触れよう!
posted2015/10/08 11:10
text by
大串信Makoto Ogushi
photograph by
TOYOTA
ガソリンなどの燃料を燃やすと冷たかったモノが熱くなるのは、燃料に蓄えられている化学エネルギーが熱エネルギーに変換されて熱が発生するからだ。自動車のエンジンは基本的に、この原理を応用して働く。ごくごく簡単に言えば、エンジンは燃料を燃やすことで熱エネルギーを取り出し、それを運動エネルギーへもう一度変換してタイヤを駆動する。だから、自動車の燃料は走れば走るほど減る。これは、燃料の化学エネルギーが熱エネルギーを経て、運動エネルギーという形に変換された結果である。
自動車のエンジンが抱えている問題は、燃料が蓄えていた化学エネルギーを100%運動エネルギーに変換できるわけではないという点だ。
化学エネルギーを熱エネルギーに変換し、熱エネルギーを運動エネルギーに変換する都度、まるで手数料を差し引かれるようにエネルギーは目減りする。たとえば自動車が走ると、走ることには直接必要ではないはずなのに騒音が出、エンジンが熱くなる。これらは手数料として差し引かれて浪費されているエネルギーである。
燃料が持っているエネルギーのうち、どれだけ目的である運動エネルギーとして活用できるかを「熱効率」と呼ぶ。いわゆる「燃費」は熱効率によって左右される。熱効率が上がれば当然燃費は良くなる。しかし従来のガソリンエンジンは、その原理上、元々ガソリンが持っていた化学エネルギーのうち30%程度しか運動エネルギーに利用できない仕組みであると言われてきた。ガソリンのうち70%は、ある意味無駄に捨てながら走らざるをえなかったのだ。
レース用エンジンの燃費が悪いのは当然だったが……。
スピードを追求するレーシングカーの場合、エンジンにできるだけ多くのパワー=運動エネルギーを発揮させる必要がある。
だが熱効率は容易に変えられないので、理論的にはより多くのパワーを得るためにはそれだけ多くの燃料を燃やさなければならない。当然、無駄に捨てるエネルギーも増えて、結果的にレース用エンジンは燃費が悪くなった。「スピードを競う限り燃費は二の次」はレースの常識でもあった。
しかし、モータースポーツの場でも時代の流れを受けて’80年代後半から燃料使用量を規制する動きが大きくなり、レースは市販車同様、燃料の実質消費量を減らす方向で燃費を追求する技術の最先端を競う場として注目を浴びるようになった。