マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
“本物”のファインプレーを見たか。
甲子園に鳥羽高が残した伝説の数々。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2015/08/23 10:30
今年で100年目を迎えた夏の甲子園の第1回大会を優勝した京都二中は、鳥羽高校の前身。今大会でも印象に残るプレーを見せてくれた。
最終回ツーアウトで、味方の異常に気づいた梅谷捕手。
京都・鳥羽高の“気づく人の少ないファインプレー”は、もう1つあった。やはり、岡山学芸館との初戦だ。
6点リードした最終回の守り。
2死までこぎつけて、さあ最後の1人と打席に迎え入れたところで、捕手・梅谷成悟が球審に向かって何かさかんにアピールしている。
この打者を打ち取ってしまえばゲームセット。何を一体……、と思って見ていると、ライトに向かって指をさしている。
見ると、鳥羽高の右翼手・宮西絢也がライトのポジションで足踏みをしているのが見えた。
「つったな……」
足踏みをしながら、だいじょうぶ! というように右手を高く上げているが、捕手・梅谷成悟は様子を見ている。
塁審が宮西右翼手に確かめに行った後に試合が再開され、まもなくゲームセットになった。
「扇の要」という使命を最後の瞬間まで全うした。
2死の時点で、宮西右翼手のほうから合図はなかった。捕手・梅谷成悟が“最後の1人”を打席に迎えながら、全軍の様子を見渡して「あっ!」と思ったに違いない。
あと1人。
あと1人で甲子園1勝。
そんな時の心理はどうだろう。同じ捕手であった私なら、どうしていただろう。
目の前の打者、目の前の投手、そして目の前の“勝利”。目先のことばかりに気が行って、おそらくその向こうで守る7人のチームメイトにまで視野を広げることなど、とても出来なかったのではないか。
「扇の要」
当たり前のように言われる捕手の使命を、梅谷成悟は激戦の最後の瞬間までさりげなく全うしていた。