三本間の挟殺プレーに勢いよく走りこんだ一塁手。

　岡山学芸館が1死一、三塁と攻め立てた場面。スクイズが空振りになって、三本間で挟殺が始まった。

　ボールを持った捕手が、走者を追って三塁に追い込む。捕手からの送球を捕った三塁手が、今度はホームの方向へ走者を追う。

　その時だ。

　突っ込んできた一塁手がホームをカバーしていた投手の前に躍り出て、三塁手からの送球を受けて走者にタッチ。ボールのやりとり一往復で、鮮やかに挟殺を完成させてみせた。

　鳥羽高・小薗晋之介一塁手。

　4番をつとめるスラッガーとして、この試合の最初の打席では先制2ランホーマーを放っていた。

　181センチ87キロの偉丈夫。下級生の頃はマスクをかぶっていた。

　ホームにカバーに入っていた投手・松尾大輝は、170センチ66キロの小兵だ。マウンドを守る大切なエースに、危険な接触プレーをさせまいとする思いが、なんのためらいもなく自らをその“身代わり”にさせていた。

　その勢いがすばらしく、投手・松尾大輝の前に割って入ったタイミングは痛快だった。

　時まさに、太平洋戦争終戦の8月。

3回戦でも、全く同じプレーを見せた小薗晋之介。

　戦時中、敵の船団めがけて突っ込む急降下爆撃機に、そうはさせじと銃撃をかける敵戦闘機。その間に割って入って、代わりに銃弾を浴びて爆撃機を援護したというゼロ戦隊のパイロットたち。

　以前、話に聞いた壮絶な戦禍のひとこまをふっと思い出してもいた。

　さらに1つ勝ち上がり、3回戦の沖縄興南高との一戦。

　そこでも、まるで初戦のビデオを見ているようなまったく同じ場面があった。

　やはり鳥羽高の一塁手・小薗晋之介が、三本間の狭殺プレーで、ホームのカバーに入った投手・松尾大輝をかばうように、とっさに彼の前に割って入り、挟殺を成立させてみせた。

【次ページ】　最終回ツーアウトで、味方の異常に気づいた梅谷捕手。