松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹が全英で進んだ“一歩分”。
三歩進んで二歩さがるメジャーの道。
posted2015/07/21 11:20
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Maki Uchida
「チャージ」という言葉をゴルフの世界に持ち込んだのはアーノルド・パーマーだったと言われている。1960年に2度目のマスターズ制覇を果たし、全米オープンも制したパーマーは、ゴルフの聖地セント・アンドリュースで開催された全英オープンでメジャー3連勝に挑んだ。
マスターズから始まるメジャー3大会を続けざまに制したのは1953年のベン・ホーガンが史上初。それから7年後、パーマーは聖地でホーガンに続こうとしていた。
全米オープン制覇の際に「チャージした」というフレーズを口にして話題になったパーマーは、全英オープン最終日を首位から4打差で迎え、2連続バーディーで発進。そのとき、聖地のギャラリーから「チャージしろ!」という声援が飛んだ。
そう、勝利を掴むためにパーマーはチャージをかける必要があった。17番を迎えたときは、まだ首位から2打差。だが、17番でバーディーを奪うと、18番でもバーディーパットを沈め、上がり2ホールで「チャージ」。その瞬間、パーマーは首位に並んだ。大観衆は、どよめき、割れるような拍手と歓声が巻き起こったそうだ。
しかし、それは本当に瞬間的な喜びだった。首位を走っていた無名のオーストラリア人、ケル・ネイグルが、その直後に17番でバーディー、18番をパーで収めて1打差で優勝。
かくしてパーマーのメジャー3連勝は幻と化し、「僕のパターはまったく働いてくれなかった」と肩を落とした。以後、ホーガンの記録に並ぶものは現れないままだ。
スピースの夢が、松山の勝利が潰えた全英最終日。
そして今年。かつてのパーマーのごとく、ホーガンのメジャー3連勝の記録に迫ったジョーダン・スピースは最終日、かつてのパーマーのごとくチャージが求められた。そして、かつてのパーマーと同じように1打及ばず、夢破れた。
「オーガスタで勝ったときとは違っていた。100%ではなかった」
そして、メジャータイトルを追い求める松山英樹も最終日に「チャージ」が必要だった。だが、かつてのパーマーのごとく「パターが入らなかった」と肩を落とす結果になった。
偉大なる記録も、勝利も、「チャージ」も、追いかければ逃げていく。だが、追いかけなければ遠ざかるだけ。
だから彼らは、どんなに悔しくても苦しくても、走ること、目指すことをやめるわけにはいかない。スピースも、松山も――。