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投球フォームと同じく“力み”なし。
大谷翔平の「言葉力」に迫る!
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byNanae Suzuki
posted2015/07/06 17:00
ふとした瞬間にこぼれる笑顔は、普通の若者と変わらないが……。二刀流も含む前人未踏の高みを行く大谷に、あらゆる野球ファンが壮大な夢を描いている。
質問者が思わず唸る、豊かな語彙での返答。
スポーツに青春の全てを捧げ、最高レベルの選手が集まるプロになりたての20歳のアスリートは普通、もっと肩に力が入っていたり、もっとシャイだったり、あるいはもっと大言壮語を吐いて自分を大きく見せようとしたりするものだ。
しかし、彼にはそういった心の力みのようなものが、まったく見られない。インタビュー時もそうでないときも、常に礼儀正しく、聞き手の目を見ながら、よどみなく質問に答えて行く。
そして、その返答についやす語彙が、20歳のアスリートとしては破格に豊かなのだ。
たとえば、「音合わせ」という言葉。彼はこの言葉を、キャンプから開幕に向けて、投球フォーム、全体のバランスを整えていく作業の比喩として使っている。ウェイトなどで身体を大きくしたり、ワインドアップでのキャッチボールで身体を大きく使ったりすることで、ピッチングを構成するひとつひとつの「音」を強めたそののちに、それらの音をきれいな和音でリズムよく奏でる、というイメージだろうか。
「ムダなく、ロスなく、なるべく余分な動きを省いて、最少の動きで投げたいなと思っています。自分の感覚の中で、『これは必要ないな』という邪魔な動きを使ってタイミングを取っていた部分があったんですけど、そこを省きたい。そうすると、力が伝わらないとか、ワンテンポ遅れてしまう部分が出てきてしまうんで、今度はそのための違うリズムのポイントを探さなくちゃならない。それが音合わせの作業です」(Number875号「今年の組み合わせ、見つかりました」)
自らの不調についてさえ、淡々と説明する若者。
アスリートは無論、「言葉のプロ」ではない。だが、トップレベルのキャリアを長年積み重ねていくことで「語るべき言葉」を獲得していく選手がほとんどの中で、これほど的確な言葉を重ねて相手に伝えることが現段階でできていることは、驚き以外の何ものでもない。
Number881号でのインタビューでは、さらに驚かされた。
今季前半戦、投手としては9勝1敗、防御率1.56と圧倒的な成績を残しているが、打者としては打率も1割台、本塁打も3本にとどまっている。石田氏がその「打の不調」について訊ねたところ、時折考えを巡らせながらも、きわめて丁寧に、現在の自分の状態を説明してくれたのだ。
自分の不調について語りたい選手はどこにもいない。
しかし彼は、まるでそう語ることが自分の課題を整理し、次の打席につなげていくための準備であるかのように、いやな顔一つせず、淡々と言葉をつないでいった。
是非、本編を御読みいただき、我々とその驚きを共有してもらいたい。