錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭、強さは“運”よりも“生き方”。
困った時に助けが現れるのはなぜか。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2015/06/29 11:40
昨夏には右足親指の嚢胞を切除する手術を受けている錦織。ウィンブルドンの大会期間も含め、半年間ほども違和感が続いていたという。
ウィンブルドンの近くの一軒家で、両親と過ごす。
少し古い話になるが、今年の全豪オープンでスタン・ワウリンカと対戦する前の錦織に、外国の記者とこんなやりとりがあった。
記者「みんなスタンをナイスガイだと言うけれど、どう思う?」
錦織「もちろん。すごくいい人です」
記者「なぜ?」
錦織「なぜって……」
口ごもったのはマズかったが、なぜいい人なのかと聞かれても咄嗟に答えられないのはよくわかる。しかし錦織は「……」を補うように続けた。
「実を言うと、時々ツアーで嫌いな人は誰かと聞かれることがあるんですけど、僕には誰も思い浮かばないんです。ツアーは本当にいい人ばかりです」
まさかIMGのイメージ戦略がこんなところまで行き届いているわけではないだろう。ウソは言えない錦織のこと、きっと本心だったのだ。
こういう人は誰からも嫌われないもので、生まれ持った気質もあるかもしれないが、ご両親の愛情と信念の素晴らしさを思わずにいられない。そしてこのウィンブルドンでは、多くのトッププレーヤーがそうするように会場近くに一軒家を借りて、両親とともに過ごしている。
「食事を作ってもらえるのがうれしい」と世界5位の25歳は何度も言っていた。
世界中のレストランを食べ歩いても、おなかと心を一番満たしてくれるのはお母さんの手作りごはん。ウィンブルドンでの練習で日に日に表情が明るくなっていったのは、ふくはらぎの回復だけが理由ではなかったようだ。落胆時にこういった救いがあるということは“運”という受身的な意味合いだけでなく、普段の生き方、生きる姿勢の強い反映であると思うのだ。