錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭、強さは“運”よりも“生き方”。
困った時に助けが現れるのはなぜか。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2015/06/29 11:40
昨夏には右足親指の嚢胞を切除する手術を受けている錦織。ウィンブルドンの大会期間も含め、半年間ほども違和感が続いていたという。
ジュニアの頃からフィジカルの弱さを自覚していた。
テニスでの棄権は、その後の大会の欠場や、時には長いツアー離脱につながることが多い。今回錦織が、ハレでの負傷から10日もなかったウィンブルドンの開幕に間に合わせることができたのは、取り組んできた体質改善と体力強化の賜物だろう。
18歳でブレークする前、ジュニアの頃からすでに「フィジカルが弱い」ということは自覚していた錦織。しかし、現代のツアーでもっとも脂が乗る頃と言われる25~28歳の時期をケガなく過ごすことができれば、苦い歴史はむしろそのための準備だったと思えるのではないか。
ツアーには、才能がありながらケガで大事な時期を棒に振っている選手がいる。
同年代では錦織の最大のライバルになるだろうと思われたファン・マルティン・デルポトロなどはその典型だ。
錦織が4度対戦してまだ一度も勝ったことのない1つ年上の難敵は、20歳で全米オープンを制覇した。世界ランク4位までいったこともあるのだが、ケガで激しいアップダウンを繰り返している。今年は、手首のケガから一旦は復帰したにもかかわらず、また手術を行なうことになった。今となっては世界ランキングも大きく落としてしまっている。
全仏オープンのときに錦織はこのデルポトロについて聞かれ、こう答えている。
「ケガが多くて本当に残念。ナンバーワンになる力があるのに、こういう状況を見るのは寂しい。でも必ずまた強くなると思う。前に一度戻って来たときだってもう勝っていたし。今は不運だけど、絶対にすぐ戻って来ると思う」
「他の選手への気遣いができるようになったのが成長」
錦織は、こんなにビッグになっても、のんびりした性格や常識的な金銭感覚が昔のまま何も変わらないと言われている。だが、ユニクロの担当マネージャーとして錦織の試合にもよく同行している坂本正秀氏は、「他の選手への気遣いができるようになったのが、一番成長したところだと思います」と指摘する。
デルポトロのようにケガに苦しんでいる選手だけでなく、自分に負けた相手、逆に勝った相手……自分自身のことで精一杯だった頃とは違い、さまざまな立場や事柄を経験しトップとしての自覚も芽生えてきたことで、さまざまな人の心に寄り添うことができるようになった。
もともと、近しい人たちには素朴な気遣いができる少年だったという。
「ジュニアの頃から、誰か大人が食事をごちそうしたりすると、お礼だと言っておにぎりを自分で作ってきたり。今でもちょっとした手作りのものとか、かわいいものをくれたりしますよ。この間も……あ、ちょっとこれは具体的には言えませんけどね(笑)」
こんなエピソードだけでも、周囲の大人たちが力を尽くして錦織をサポートしたくなる理由がわかるというものだ。