サムライブルーの原材料BACK NUMBER
徹底管理がコンディション悪化に?
ハリル流の日本版を見つけて欲しい。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/06/22 11:00
シンガポール戦での日本代表のコンディションは、決していいとは言いづらいものだった。どんな要素がその裏にあったのだろう。
個性の強い選手が多い欧州やアフリカでの指導経験。
朝の食事のことで言えば、後任のハビエル・アギーレは朝の食事は一緒に取るというスタンスだった。「朝寝坊した選手に対して怒った」などとの新聞記事が躍ったこともあった。しかし後に彼は、ザック時のルールに戻している。その理由を協会スタッフに聞くと「日本人は真面目だから、そこまで管理しなくていい」とアギーレは説明したようである。
個性の強い選手ぞろいの欧州と、集団性、勤勉性のある日本人選手ではそもそもアプローチが異なってくるのかもしれない。
想像するに、欧州やアフリカで指導してきたハリルホジッチは厳しく管理することで個性の強い選手たちを束ね、強くしてきた。食事の時間、部屋に戻る時間を含めてすべて管理するやり方、サッカー漬けにしてしまうやり方を日本にも当てはめていこうとしている感じがある。
過ぎたるぐらいがちょうど良かった欧州、アフリカに比べると、対日本人となると本当に「過ぎたるが過ぎたる」になってしまう可能性はないのか。
岡田武史監督は「非管理」をベースにしていた。
南アフリカW杯で日本をベスト16に導いた岡田武史監督(現FC今治オーナー)は、ピッチを離れれば選手たちが宿舎でいかにリラックスできるかを心掛ける、「非管理」をベースにした指揮官であった。管理を最低限に抑えることはガス抜きの意味のみならず、プレーの責任感、アイデアにもつながってくると踏んでいた。
のちに彼は中国スーパーリーグ杭州緑城の監督を務めているが、ここでは選手の自立を促進するために寮の門限を撤廃するなど「脱管理」のマネジメントを施していた。この意図を尋ねると、彼はこう語っていた。
「自陣で敵が2人いるディフェンスで1人がボールホルダーに行ったら、もう1人にはカバリングを考えたポジションを取れ、と俺は言う。でもボールホルダーがディフェンスに対しておどおどしていたなら、カバリングはいらないという判断も出てくるし、もっとおどおどしているヤツだったら2人とも奪いに行けばいい。
自分の責任で判断するのが選手。奪いに行ったら、意外と(相手が)うまくて抜かれるということもそりゃあるよ。でも最悪なのは、監督がここにいろって言ったからって何も考えずにカバリングしているヤツ。それは俺に言わせりゃ選手じゃない。日ごろの生活で人に言われたことだけやっていたら、試合のなかでも責任を持って判断できなくなる」
あくまで杭州緑城の若手選手に向けた話ではある。だが、シンガポール戦の消極性を見るにつけ、何か少しつながっているような気がしてならなかった。W杯予選の経験を持つ選手が多いなかで、初戦の重圧が消極性の理由などにはならない。たった2週間、たった1週間で影響がどれほどだったかは別にしても、指揮官の要求をこなそうとする選手の強い意識と、徹底管理のプログラムが多少なりとも、疲労感と消極性の要素になった可能性は排除できないのではないか、と。