プレミアリーグの時間BACK NUMBER
天敵・ブラッター辞任でお祭り騒ぎ。
イングランドよ、“正気”を取り戻せ。
posted2015/06/16 10:40
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Getty Images
6月2日にスイスのFIFA(国際サッカー連盟)本部で発表されたゼップ・ブラッター会長の辞任。5期目の就任決定から僅か4日、「権力と金の亡者」とまで言われた人物の意外な翻意は、欧州の大半で「喜ばしい衝撃」として受け止められた。
「正義 1-0 FIFA」
そう見出しで辞任を伝えたのは、イングランドの『サンデー・タイムズ』紙。同紙は数年間にわたってFIFAの金権体質を暴くべく取材を重ねてきた経緯があるが、素人目にもブラッター辞任の必然性は明らかだろう。
ブラッター体制を揺さぶることになった米国FBIの捜査によれば、FIFA関係者が受け取った賄賂の総額は190億円近くにものぼる。会長自らも関与していたとなれば、汚職の当事者として言語道断。自身の知らないところで賄賂が横行していたのであれば監督不行き届きということになり、いずれにしても組織の長として責任を取るのが筋というものだ。
しかしそれ以上に、イングランド国内の反応からは、自国の勝利というニュアンスが強く感じられる。そこには「サッカーの母国」としての誇りと責任感があるに違いない。そう、FA(サッカー協会)のグレッグ・ダイク会長が「戦ったかいがあった」と繰り返していたように、イングランドは「ブラッターのFIFA」と対立関係にあったのである。
イングランドとブラッターの確執は5年前に遡る
対立の構図が明確になったのは5年前。2018年と2022年のW杯開催国を決める投票の前月に、英国BBCテレビが2010年南ア大会を巡る賄賂疑惑をテーマとするドキュメンタリー番組を放送し、結果的に'18年の開催国として有力視されていたはずのイングランドが招致争いでロシアに敗れている。
その2年後にも印象的な出来事があった。チェルシーが優勝を果たした'12年CL決勝後のこと。ブラッターはPK戦での決着に不満を唱えた。
たしかに、内容はバイエルン・ミュンヘンの圧倒的優勢だった。しかしイングランド国内では、耐えに耐えてPK戦に持ち込んだチェルシーの執念がクラブの垣根を越えて評価されていた。母国民にとっては、国際レベルでの宿敵ドイツの強豪を敵地で、しかもドイツ勢が得意とするPK戦で下したのだから当然だろう。そのチェルシー優勝に水を差したブラッターの発言は、巷で「FIFA会長はドイツ勢の優勝を望んでいた」と解釈されることになった。