F1ピットストップBACK NUMBER
ハミルトンの自信は過信と化したか。
エンジニア無視に、ヘルメット問題。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMamoru Atsuta
posted2015/05/17 10:50
ベルのヘルメットをかぶるハミルトン。2つの星はタイトル2回を意味しているが、最近は王者の資質を疑わせる行動が続いている。
エンジニアの進言を無視し、プッシュを続行。
担当レースエンジニアに「追いつくのは無理だ。それより今回は確実に2位をキープしてエンジンをいたわろう」と言われながらも、ハミルトンは数周プッシュし続けた。
「だって、僕はレースをしに来てるんだ。2位でフィニッシュするためじゃない。だから無視したんだ。残り15周で22秒あったニコとのギャップがどんどん縮まっていたからね。でも、残り7周となったところで差がまだ13秒もあって、それを詰めるのは不可能と判断したから、安全にクルマを持ち帰ることにした」
“レース”を続けたハミルトンを私たちが非難するべきではないが、ともに戦っている担当エンジニアのピーター・ボニントンがどう思っているのかは別だ。
「自分のことは、自分で決める」と言えるほど、現在のF1は単純ではないのだから。
「チャンピオンらしく、もっと責任ある行動を」
「過信」を感じさせる事件は、最近もうひとつ起きている。
ハミルトンはカート時代からアライ製のヘルメットを愛用してきたが、バーレーンGPから突如、ベル製のヘルメットに切り替えた。
ドライバーがヘルメット・メーカーを替えることは、そう珍しいことではない。
特にアライはドライバーと使用契約を結んでいるわけではなく、ヘルメットを使いたいというドライバーへ供給しているだけだから、「支給をストップしてほしい」と言われればそれまでのことである。
ところが、ハミルトンからアライへの報告は皆無だった。そればかりか、使用していたヘルメットの返却もなく、カート時代から世話になった礼もなかったという。
サーキットには、ヘルメットのメンテナンスを行なうサービススタッフがメーカーごとにいる。そのスタッフのひとりは、ハミルトンの態度についてこう嘆く。
「ルイスが契約違反をしたわけでもないので、私たちに怒る資格はない。ただ、ちょっと寂しい。だって、ルイスはチャンピオン。チャンピオンらしく、もっと責任ある行動をとってほしかった」
ものの見方が日本人的すぎるだろうか。
いや、コース上で速いだけでは、真に尊敬を得られる存在にはなれないはずだ。